コラム

インドの蓄電池市場 ~国内電力需要増加や再生可能エネルギーの推進等により成長~

Published on
Mar 14, 2018

市場規模

2016年にインドの電力情報誌Power Today誌が報じたところによると、インドの蓄電池市場は2013年度時点で1,156億4千万ルピー。2018年度には1,604億3千万ルピーに到達する見込みだ。(注1)

                                                                                【インドにおける蓄電池市場規模推移(億ルピー)】

市場動向

国内の電力需要の増大や産業用・家電など消費者向け商品へ使用される蓄電池需要増のほか、太陽光発電や、EV等省燃料・大気汚染対策としての代替エネルギー・機器の政府による推進などが挙げられる。インド政府が製造業振興政策「Make In India」によるさらなる内製化を進める中で、今後の蓄電池の国内生産がより加速することが期待される。

                                                                                                     【蓄電池市場規模推移】

インドは世界の中でも有数のEV推進国である。現在EVの価格の3分の1を搭載バッテリーが占めており、インド政府は製造業振興政策「Make In India」と合わせ、さらなる内製化を進め、EVを積極導入していく姿勢だ。2017年5月には、インド政府系シンクタンクのNITI Aayogが「2030年までに国内を走る全ての自動車をEVにする」との提言を発表。NITI Aayog は2030年全EV化に向け、蓄電池市場は3ステージに分類できる、としている。第1ステージは2017年~2020年で、インド国内における蓄電池生産環境や研究開発拠点の整備が主眼となる。セルは輸入で、バッテリーパックを国内生産。累計蓄電力量は120GWh、市場規模は1.3兆~1.4兆ルピーと見込まれている。第2ステージは2021~2025年、サプライチェーンの確立と研究開発への投資のフェーズで、カソードと特定のセルは輸入、バッテリーパックといくつかのセルは国内生産される見込みで、累計蓄電力量は970GWh、市場規模は6.1兆~8.9兆ルピーに伸びるとされている。第3ステージは2026~2030年、ほぼ生産の全行程をインド国内で行い、カソードのみ輸入となる予定。累計蓄電力量は第1ステージの20倍以上の2,410GWh、市場規模は11.7兆~17.1兆ルピーに到達するという。(注2)

EV化に舵を取らない場合、自動車燃料は現行のままガソリンおよびディーゼルとなる。インドは自動車燃料の8割を輸入に頼っており、2017年~2030年の輸入総額は44兆ルピーと試算されている。EV化が達成された場合でも、17兆ルピーの自動車燃料が必要とされているが、それでも4兆ルピーの輸入削減となる見込みであり、環境保護と貿易収支の点からも、蓄電池市場の成長が期待されている。(注3)

EVに加え、太陽光発電などの再生可能エネルギーに用いられる蓄電池の需要増加もある。その理由は、蓄電池が再生可能エネルギーの余剰電力を貯蔵することができ、必要な時に放出することができるからである。蓄電池は再生可能エネルギー等の不安定な電源を調整するための一つの手段としても用いられ、電力供給の安定化を進めることができるため、インドでの再生可能エネルギーの需要増(参考として、下記グラフで、家庭用・産業用・商業用の屋上太陽光発電の累積値推移を表示)に伴い、蓄電池の導入の伸びが見込まれている。

企業動向

・Panasonic
1972年にインド法人(Panasonic Energy India Co.Ltd)を設立。その後2008年に新たにPanasonic India Pvt Ltdを設立し、本格的にインド市場へ参入(注4)。グルガオン拠点。ATM(現金自動預払機)や携帯電話の基地局向けに、停電時に備えて電気を貯める産業用リチウムイオン電池を日本から輸入していたが、電力不足による太陽光発電など再生可能エネルギーの導入に向け、出力変動を抑える蓄電システムの需要も拡大すると判断。高まる需要に対応するため、2016年9月に産業用リチウムイオン電池の組立工場を新設。輸入から国内組立に生産体制を移行することで、よりスピーディーな供給体制を目指す。初年度の生産能力は年間2万台で、需要動向に応じて増やす計画だ。(注5)

・三菱商事
インド三菱商事会社として、ニューデリーに拠点を置く。2016年、米AESエナジー・ストレージと、今後成長が見込まれるアジア・オセアニア地域の蓄電市場において同社の蓄電システム「Advancion」の共同販売に関する業務提携に合意した。(注6)実証実験はデリー北部・北西部にて、現地配電事業者のタタ・パワー・デリー・ディストリビューション・リミテッド(TPDDL)、米発電会社のAESコーポレーションと共同で取り組む。(注7)

・スズキ、東芝、デンソー
2017年に、インドに自動車用リチウムイオン電池パック製造のため、3社による合弁会社の設立について基本合意し、契約を締結した。約200億円の設備投資を行い、2019年までの生産開始を目指す。環境への対応が重要課題のインドでは、自動車の新しい燃費規制の導入も予定されている。3社が合弁で設立する電池パック製造会社は、インド国内において、リチウムイオン電池パックの安定供給を実現し、インドの環境車の普及促進に対応していくとともに、インド政府が掲げる製造業振興政策「Make in India」に貢献していくものである。(注8)

現地消費トレンド

・インド政府は、各メーカーに対して、リチウムイオン電池の生産施設を設置するよう呼び掛けている。この背景にあるのは、安価なインド製のリチウムイオンを導入することによりEVのコストを下げることと、中国の自動車メーカーの参入を防ぐということである。この政府の呼びかけにより、マルチ・スズキは2兆ルピーをリチウムイオン電池生産に投資する意向を示している。(注9)デリー拠点の蓄電池メーカーLithion Powerは、リチウムイオン電池のスワップエコシステムを確立するため、今後2~3年で10億米ドルを投資するという。バッテリースワップとは、カラになったバッテリーを「充電」するのではなくバッテリーそのものを「交換」するというもの。同社は現在デリー市内5か所に公共交通機関専用のスワップステーションを運営している。対象車種は三輪車や二輪車、電動リキシャ。今後3年で100万台以上のEVがスワップモデルでの走行となると見込んでいる。アメリカや中国でのTeslaのようなハイエンドEVではなく、インド独自のシェアモビリティ文化に商機を見出した。1回のスワップでかかるコストは75~300ルピー、70~100kmの走行が可能。同社によると2019年までに、デリー市内各2km圏内にスワップステーションが設立されるという。

・田淵電機は2017年12月、インドの北および北西デリーで配電事業を展開するTata Power Delhi Distribution Limited(TPDDL)社と共同で、太陽光発電・蓄電システム運用の実証試験プロジェクトの実施で基本合意した。実証実験では、TPDDL社内に、出力5.5kWの太陽光発電用パワーコンディショナー(PCS)と定格容量9.48kWhのリチウムイオン蓄電池を一体化した蓄電ハイブリッドシステム「EIBS(アイビス)」を設置し、非常用電源としての活用や電力系統の安定化を検証する(実施予定時期不明)。EIBSは、蓄電池対応ハイブリッドPCSと専用蓄電池ユニットを組み合わせた住宅用システム。通常は太陽光発電と蓄電装置のそれぞれで必要となるPCSを独自のマルチストリング技術で1台に集約。太陽光発電と蓄電池が直流接続するため充電時の変換ロスが少なく、電気を有効利用できるという。インドでは、電力需要が年平均4.9%のペースで拡大しており、2025年までにEUを上回り中国と米国に次ぐ電力消費大国になると見込まれている。その一方で、慢性的な電力不足のため電力供給が不安定で、国民のおよそ25%の約3億人が電気のない生活を送っている。また、インドに生産設備を構える企業も電力の安定供給を強く求めており、強い内需が期待されている。(注10)

・NECは2019年度内を目途に、再生可能エネルギー(太陽光発電システム、以下PV)とリチウムイオン蓄電システム(以下、LiB)を活用するエネルギーマネジメント技術のインド事業化を検討する。インド国内には40万局以上の携帯電話基地局があるが、不安定な電力事情によりディーゼル発電機の利用が必須となっている。同社は2013年9月~2017年3月の期間、NEDOの実証実験事業としてインド国内20箇所の携帯電話基地局において、PVとLiB、またシステム全体の遠隔監視、運転計画および充放電を制御するエネルギーマネジメントシステム(以下、EMS)を組み合わせた総合システムを構築、約2年間実地で運用を行った。結果、ディーゼル燃料やエネルギーコストを削減、EMS導入後のCO2削減効果も確認できたという。今後2018年度内を目途にインド国内におけるビジネスモデルの検証等を進め、事業化検討後の2019年度からその後5年間の事業化により、3万局へのシステム導入と100億円規模の売上を目指す。(注11)

・インド政府系シンクタンクNITI Aayogが2017年5月に発表した2030年全EV化提言に対し、2018年2月には道路交通相が「EV普及のための行動計画は既に準備しており、政策は不必要」と発言。従来の姿勢を転換し、排ガスや石油輸入の削減に向けてハイブリッド車(HV)などの選択肢に柔軟な姿勢を示した格好だ。トヨタの現地法人は「石油輸入を減らし、大気汚染の改善という政府目標に沿って行動する。環境保全に貢献するため、HVや燃料電池車など(ガソリン車の)代替車の開発に取り組む」と述べており、今後の政府動向および各メーカーの動きが注目されている。(注12)

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