インドにおけるエンジニアリング学士号の取得者数は、2013年の65万1千人から2016年は77万1千人に増えており、年間6%で伸長、2020年には年間80万人を超えると予測されている。現在、エンジニアリング学士号を取得できる学校は全国に3,291校あり、地域別ではデリーNCR、ベンガルール、チェンナイ、プネ、ハイデラバードといった大都市圏が75%を占めている(注1)。
人材開発省が2017年度に行った調査によると、学士で最も登録者数が多かった科目は人文で33%。次いで科学17%、エンジニアリングが3位の14%。IT・コンピュータは3%(注2)。
大学院(Post Graduate)課程では、社会科学が最も多く18%。IT・コンピュータは7番目、エンジニアリングは8番目でそれぞれ5%だった(注3)。
博士課程(Ph.D)で最も登録者数が多かった科目は科学で26%。次いでエンジニアリングは24%と続いた(注4)。
ただし、博士課程まで進む割合は少ない。同調査では学士登録者の1%に満たず、エンジニア登録者数は学士課程約400万人に対し、38,700人強とその数は少ない。
業界別のエンジニア人材採用割合で最も多いのはIT業界で59.5%、次いで通信業界57.8%、エネルギー業界43.3%となっている(注5)。
オンライン人材派遣地場大手のWheeboxによると、エンジニアリング人材の雇用可能性(エンプロイアビリティ、労働者が持つ雇用されるにふさわしい能力)は、2014年54%から2015年52.88%、2016年は50.69%と下降しており、人材教育の必要性が年々高くなっている(注6)。
Tech MahindraのCEO・マネージングディレクター、CP Gurnani氏によると、スキルギャップの拡大のため、入社後にエンジニアを再トレーニングすることが必要となってきており、大手は再トレーニングセンターを企業内に設け始めている、という。Tech Mahindra自身も5エーカーに及ぶ技術・ラーニングセンターを設立したという(注7)。人材派遣大手Indeedによると、科学・技術・工学・数学(STEM)分野の技能人材不足率は2014年1月の6%から2018年1月は12%にまで上昇しており、人材不足が懸念されている。STEM分野の人材の雇用先はIT業界や金融業界が主流だ。ソフトウェアエンジニア、ウェブ開発、事業アナリスト、ソフトウェア設計、SAPコンサルタントとしての雇用が多い。2016年の新卒人数は7,800万人、うちSTEM分野人材は260万人だった。「数」としての人材は多く輩出されるものの、産業に見合った技術を持った「技能人材の数」の不足が問題となっている。一方で、21~25歳の若年層の求職者は、STEM分野での就労を希望する傾向が強く、適切な技能教育が求められている(注8)。インド政府も技能人材の教育に注力すべく、2003年から政府主導によるエンジニアリング校の設立奨励を実施、その結果、2016年には国内のエンジニアリング校は3,291校まで増加している。しかしながらこの奨励により、インド工科大学(IIT)や有名私立大学以外の、標準以下のエンジニアリング教育機関が乱立しており、卒業生が就職できない状況が続いている。インド技術教育協会(AICTE)によると、2016年度の定員数は157万1,220人、実際の入学者数は78万7,127人で約半数の入学率にとどまったとしており、定員割れも大きな問題となっている。同協会は基準に満たない800校を閉校させるべきだとしている。適切なインフラが整備されていない学校、30%以上の定員割れが5年間継続している学校は同協会既定で閉校となり、2014年から3年間で410校が閉校した。米スタンフォード大学と世界銀行の調査によると、インドの工科学生は数学やクリティカルシンキングには長けているが、高次思考技術の面で中国人やロシア人学生に劣っているという(注9)。一方で、IIT(インド工科大学)やIIS(インド理科大学院)などは世界有数のトップレベルのエンジニアリング校として知られている。イギリスの教育誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが発表した2018年の工科大学ランキングでは、IISが89位、IITボンベイ校が126~150位圏、IITデリー校・IITカンプール校・IITカラングプール校が201~250位圏、IITマドラス校・IITルーキー校が251~300位圏、IITグワハティ校が301~400位圏Jadavpur大学(コルカタの公立大学)・国立工科大学ルールケラ校、Tezpur大学(アッサム州の私立大学)が401~500位圏にランクインしている(注10)。多国籍企業の研究開発を担うグローバル・インハウス・センター(GICs)の拠点数も増えており、その雇用規模は22万~24万FTE(フルタイム当量)となっている。市場を占めているのは自動車エンジニアリングサービスで、約20%。年平均15%増で成長しているという(注11)。
下記にインドでエンジニア人材を積極採用している企業と事例を挙げる。
・Boschグループ (注12-1)(注12-2)
ドイツの自動車部品メーカーグループ。インドではグループ企業12社を展開、初の製造拠点は1951年に設立、現在インド国内18か所の製造拠点と7か所の開発センターを運営している。従業員数は3万1千人超、2016年度の売上高は1,830億ルピーだった。2018年2月にはインドで1万人のエンジニアを採用する計画を発表。ベンガルールの研究開発センターでの採用で、グローバルマーケットに向けた製品開発を行う。同センターには既に1万8千人のエンジニアが働いており、世界2位の規模を誇る。特にIoTや電気自動車の開発に注力する方針。また、今後2年間でインド事業に50~80億ルピーを投資するとしている。
・Samsungグループ (注13-1)(注13-2)
韓国の家電メーカーグループ。インドには1995年に進出、国内2か所の工場と3か所の研究開発センター、1か所の設計センターを展開している。従業員数は4万5千人超。携帯端末の他、スマートテレビやスマート冷蔵庫などの白物家電のインドに特化したモデル開発に注力しており、研究開発センターでは1万人が従事している。2018年1月にはインドのトップ校から1千人のエンジニアの採用計画を発表、うち300人は昨年同様IITから採用するとしている。人工知能やIoT、機械学習、生体認証、自然言語処理、各超現実、5Gネットワーク技術、コンピュータービジョン、モバイルセキュリティなどの分野におけるエンジニアを採用する。Samsungは2017年に800人のエンジニアを採用した実績があり、昨年に引き続きR&Dの強化を進める。
・Apple (注14-1)(注14-2)
アメリカの携帯メーカー。2012年、アップルの本社アメリカの従業員数は4万7千人、うち約1万2千人がエンジニアやデザイナーなどのホワイトカラー技術人材と報道された。同社は、インド人のエンジニア人材の米国就労に対し発行が必要なH-1Bビザを2001~2010年に1,750人、2011年~2013年に2,800人に対し発行しており、同社エンジニア人材の約3分の1がインド人である、との見解もある。2017年11月にはインド拠点として初となるエンジニア人材の採用を発表。勤務地はベンガルールかハイデラバードの同社拠点、IITハイデラバードでのキャンパスリクルーティングを12月に行う予定で、参加登録者は300名を超える見込みだ。同校にはマイクロソフトやグーグルなど大手IT企業も採用活動を行っており、2016年は420人のうち120人が就職活動初期段階で内定を獲得している。
・ 2018年1月、仏ソフトウェア企業Dassault Systemesはアンドラプラデシュ州技能開発公社(APSSDC)と提携し、3Dプリントのエンジニアリング養成機関「3D Experienceセンター」の設立で合意した。場所は新州都となる予定のアマラバティ、総事業費は30億9千万ルピー。州政府が3億6千万ルピーを補助し、Dassault Systemesが27億3千万ルピーを投資、この他にも生徒の奨学金などにも投資する計画。航空宇宙、防衛、自動車、造船業に従事するエンジニアリングを育成、コース数は85となる見込み(注15)。
・地場IT大手Wiproの従業員数は16万3,827人。IT業界における新卒人材の給与平均は30~40万ルピーだが、同社は卒業校による独自の給与体制をもっている。新卒人材は35万ルピーまたは60~65万ルピー、IITなどトップ校からの新卒人材は上限200万ルピー、の3段階。以前は35万ルピー人材が95%を占めていたが、現在は60~65万ルピー人材が10%まで伸びているという。インドのIT企業による大量採用、業務内容も単調なものというのは過去の話で、現在は質の高いエンジニアを増やし、より付加価値の高い業務への移行が進んでいる(注16)。