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インドのスタートアップ投資-世界3位のスタートアップ・エコシステム、大型投資も進み投資額は500億米ドル超

Published on
Sep 9, 2021

市場概況
インド政府のスタートアップ振興政策「Startup India」によると、インドのスタートアップ・エコシステムは、米国、中国に次ぐ世界3位の規模を誇る。スタートアップ1社あたりの平均雇用人数は12人で、35万人以上の雇用を創出している。また、スタートアップ創業者年齢の中央値は31歳と若い。女性の活躍も進んでおり、1人以上の女性の取締役を有するスタートアップの割合は43%に上る[i]

スタートアップ数は年々増加しており、インド商工省産業国内取引促進局(DPIIT)によると、2016年より同局に認定されているスタートアップ数は42,733に上る(2021年1月27日時点)[ii]


【DPIITによる認定スタートアップ数推移】

スタートアップへの投資額も年々増加しており、2016年の37億米ドルから2017年には108億米ドルと急伸長、2018年は低下したものの、2019年は過去最高の142億米ドルに到達。2021年は5月5日時点ですでに78億米ドルと、2019年の1/2をすでに超えている。

1件当たりの投資額も増加傾向にあり、特に2021年はパンデミック後の世界的なデジタルシフトと、投資流動性の高まりが、より高額な投資の増加に拍車をかけているという。

【スタートアップ投資金額・件数推移 [iii]

インドのスタートアップへの大型投資案件の増加に伴い、ユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場で、設立10年以内のベンチャー企業)の数がここ数年で急増している。20年前はインキュベーターやアクセラレーターといったサポートシステムが未整備で、スタートアップへの投資も少なかったが、近年では投資活動も活発化しており、資金を調達したスタートアップがさらに事業拡大、ユニコーン企業に成長という好循環となっている。2019年の1年間で9社のユニコーン企業が誕生。その数は2025年には95社に到達するとみられている。

【ユニコーン企業数推移と予測[iv]

Inc42とDELLの共同調査レポートによると、2021年第1四半期のスタートアップ投資は、金額トップはEコマース、次いでほぼ並んでフィンテックとなっている。件数でいうとフィンテックが最も多く、次いでEコマース、教育テックが上位となる。

【2021年第1四半期の業界別スタートアップ投資金額と件数[v]

政策的方針など
インド政府は、スタートアップ振興政策「Startup India」を2016年より進めているが、最近の投資に関する政策的方針の動向のひとつに、「Angel Tax(エンジェル税)」の免除がある。インド所得税法において「市場価格を上回る価格にて新株発行を行った場合に、その超過相当額が“Income from other sources(その他の収益)”として認識され、30%が課税される」という項目が、2012年に規定された。これにより、インドのスタートアップが資金調達によって得た運転資金のうち、市場価格を上回る部分について、30%のエンジェル税を納税する必要があった。多くのスタートアップが税務調査による追徴を受け、投資家側にも特にアーリーステージのスタートアップへの投資の足かせになっており、撤廃が求められてきた[vi]

2019年8月、インド政府は、商工省産業政策推進局(Department of Industrial Policy and Promotion, Ministry of Commerce and Industry:DIPP)が承認したスタートアップに対するエンジェル税の撤廃を発表。同時に、外国企業がインド企業に投資する際に課税されていた40%の税金に対しても廃止を公表した。国内外の企業による投資を促進するための環境整備が行われつつある[vii]

企業動向

・Ola Electric Mobility [viii-1]  [viii-2]  [viii-3]  [viii-4]

2017年設立。ベンガルルに本社を置く、配車サービス大手Ola傘下の電気自動車(EV)専門のスタートアップ。米国のベンチャーキャピタルファンドのTiger Globalや、Matrix Partners Indiaなどから40億ルピーを、2019年にはソフトバンクから2億5000万米ドルを調達。タタグループの名誉会長Ratan Tata氏も出資している。2022年までに100万台のEVの市場投入を計画しており、BMWの元幹部やコネクテッドビークルの専門家などが同社を率いている。

親会社であるOlaが2020年5月に1,400人の解雇を行ったのに対し、Ola Electric Mobilityは8月に2,000人の新規雇用計画を発表。また、オランダ・アムステルダムに拠点を持つ電動スマートスクーターのOEMメーカー、Etergo BVを買収。2021年初頭にタミルナドウ州に500エーカーの敷地に2輪EVの工場を建設、今年8月には同工場からの出荷が始まり、同時期に、EV四輪も2023年に発表するという報道もされている。今後のインドEV市場のけん引役として期待されている。

・Meesho [ix-1] [ix-2] [ix-3]

2015年創業、ベンガルル拠点の、ソーシャルメディアを活用したマーケットプレイス企業。WhatsApp、Facebook、Instagramなどのソーシャルメディアプラットフォーム上で売り手と顧客をつなぐ。同社はインドの約5千市町村に広がる、女性を中心とした1300万人以上の起業家と、10万以上のサプライヤーからなるネットワークを有しており、主に食料品、アパレル、家電、電子機器などを取り扱っている。

創業から4年で7回の資金調達に成功。2019年8月には、Facebookが6月に続いて1億2,500万米ドルの新規出資を発表。資金調達総額は1億9000万米ドルに達した。Meeshoは、同社のプラットフォームだけではなく、ソーシャルメディアを通して売買できるようになっている。同社がシェアを拡大すればするほどソーシャルメディア(WhatsAppやMessenger)の利用率も上がる仕組みで、Facebookからの大型投資を獲得した。

さらに2021年4月、ソフトバンク・ヴィジョンファンド2が主導する新たな資金調達ラウンドで3億米ドルを獲得、評価額は21億米ドルに上昇した。

・Vedantu [x-1] [x-2] [x-3] [x-4] [x-5]

2014年創業。ベンガルルに拠点を置き、12~18歳向けオンラインチュータリングプラットフォームを運営している。500以上の都市でサービスを提供、利用生徒数は96万人超。教師の評価は5点満点中4.8点と高い。小学校~高校(1~12年生)までのクラスをカバーし、中退生徒向けのクラスもある。

新型コロナウイルスによる政府の休校措置後の数カ月で、新規加入生徒数が200万人超に急増。うち有料会員は月間2万人のペースで増えているという。

2019年8月に4,200万米ドル、2020年2月に2,750万米ドル、同年7月に1億米ドルと相次いで投資を獲得、評価額6億米ドルとなった。同社への投資企業には、米国のベンチャーキャピタルのAccel Partners、Tiger Global、GGV Capitalなどが名を連ねている。

2021年8月には、先行してユニコーンとなった競合BYJU’sの買収のうわさがあったが、同社はこれを否定、既存投資企業及び新たなアジアのプライベート・エクイティ・ファンドから合計1億米ドルの調達を検討している模様。この投資が実現すれば、同社はインド5番目の教育テックスタートアップユニコーンとなる。

・Dream Sports [xi-1] [xi-2] [xi-3] [xi-4]

2008年創業、ムンバイ拠点のスポーツテクノロジー企業。ファンタジー・スポーツプラットフォーム「Dream 11」、マルチスポーツアグリゲータープラットフォーム「Fancode」、スポーツアクセラレーター「Dream X」などを運営している。ファンタジー・スポーツとは、ネット上に集った各々のプレーヤーが各自でスポーツチームを作り、その空想(ファンタジー)チームを戦わせるというもの。ユーザー数は2014年の10万人から2016年に130万人、2018年に1,700万人、2020年には8,000万人を突破。インド国内には1億人のファンタジー・スポーツプレーヤーがおり、うち8,200万人はDream11のプレーヤーと推測されている。

2020年のプロクリケットリーグ「Indian Premium League(IPL)」のタイトルスポンサーを22億2000万ルピーで獲得。また、同リーグの放映権を得たスポーツチャネルStar Sportsとの協賛スポンサーを推計10億ルピーで取得した。2020年9月には米国のベンチャーキャピタル、Tiger Global、Footpath Ventures、地場のChrysCapitalなどから2億2500万米ドルの投資を獲得。これによる時価評価額は25億米ドルともいわれており、2019年4月の10~15億米ドルから倍増した。IPLスポンサー就任による収入増加予測が大型投資につながったとみられている。

同社は2021年8月、スポーツテックのコングロマリットになるべく、2億5千万米ドルの企業ベンチャーファンドを立ち上げた。このファンドにより、アーリーステージのゲーミング、スポーツ、フィットネステクノロジーのスタートアップ育成によるエコシステム構築を狙う。今のところ、約20社のスタートアップを12-24か月で育成、最低でも年間1億米銅を5年以内に達成可能と思われるスタートアップを対象に行う計画。

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