インドのサステナビリティスタートアップ―2070年までにネットゼロを目指すインドで、環境保護やリサイクルなど多様なアイデアをビジネス化するスタートアップ

ž   様々なメディアでも取り上げられているように、インドは2021年のCOP26で、2070年までに温室効果ガス排出のネットゼロを達成するという目標を発表した。その際に、2030年を一つの大きな区切りとして、再生可能エネルギーの導入、炭素排出量の削減など、具体的な達成目標数値を持って、排出量削減などに取り組んでいる[i]。

ž   一方、インドは様々な環境・エネルギー課題を抱えており、人口増や経済発展に伴うエネルギー需要の増加に伴う排出量の増加、世界的な気候変動の影響で、以前から問題となっている水不足のさらなる懸念の増加や、近年の北部大都市を中心とした大気汚染の悪化など、解決すべき課題が山積している。

ž   政府は、CleanIndia政策や、EV普及政策の他、廃棄物管理規則の強化など、様々な政策や規制強化を通じて排出量削減や環境保護などに取り組んでいるが、これらを支えるスタートアップ企業の存在は大きい。例えば、2030年までに再生可能エネルギーによるエネルギー供給率を50％にするという目標には、再生可能エネルギー事業スタートアップとして登場したRenew Power、Greenkoなどが、インド主要企業に成長し、その推進に貢献している。日本企業もこれら企業に出資し、インドの再エネ事業に参画している。また、EV普及政策に関しては、EV二輪のOLA、Ather、さらにEV普及を支える充電インフラを提供するBoltやSun Mobility、EVに特化した配車サービスのBluSmartなど、大きく成長したスタートアップが、EV普及促進に貢献している。

ž   インドは世界の中でも米国、中国に次ぐスタートアップ大国と言われており、環境保全や排出量削減など、様々な分野で活躍するスタートアップは多い。その中で、かなり独断と偏見にはなるが、ユニークなアイデアでサステナブルなビジネスを展開・拡大するスタートアップをいくつか紹介する。

ChakrInnovation[ii]

ž   インド初のディーゼル発電機用後付け排出ガス制御装置「Chakr Shield」を2年半の研究の末、開発した。インドですでに普及している発電機に後付けが可能であり、発電機本体に悪影響を与えない触媒ベースのポジティブフィルトレーション技術を採用している。この制御装置により、ディーゼル発電機から排出される粒子状物質を70%以上削減する。すでにReliance Industries, TataGroup, ITC, Coca-Cola, Amazonといった大手を含む150社以上に導入されている[iii]。また、回収した粒子状物質を無害処理し、インクやペンキとして再利用も可能だという。

ž   さらに、リチウムイオン電池への依存を減らすため、アルミニウムベースの独自のエネルギー貯蔵技術や、分散型エネルギー源を接続するためのソフトウェア・プラットフォームの開発も進めている。2023年3月期の年間売り上げは2億2,700万ルピー、評価額（2024年5月9日時点）は1,730万米ドル[iv]。

Clairco[v]

ž   商業ビルなどの大型屋内空間におけるHVACシステムを、IoTによりリアルタイムで管理し、空気浄化と空気質維持、管理を行う。同社の開発した特許技術「低抗力ナノテク・エアフィルター」により、既存の換気ユニットを空気清浄システムに変えることができる上、フィルタ交換時期は、機械学習アルゴリズムにより予測可能だ[vi]。当システムの導入により、室内の空気質を保つことだけでなく、建物のリアルタイムの占有率データに基づき、空調や照明、換気を最適化することで、省エネルギー・コスト削減にも貢献する。施設建設・運営者は、同社のシステムを導入することで、グリーンビル認証システムに使用可能な追加クレジットの獲得も可能だ[vii]。

ž   PanasonicLife Solutions IndiaとインドVCの100X.VCの協力を得て開始したアクセラレータプログラム「Panasonic Ignition」で、140社以上の応募のあった中から優秀な12社のうちの1社として選ばれ、2024年3月に開催されたピッチコンテストで最優秀賞を獲得した（最優秀賞は2社、もう1社はクラウドベースのビル管理システムEnlite）[viii]。

Banyan Nation[ix]

ž   インド初の垂直統合型プラスチックリサイクル企業の1つ。インド全土に数多く存在する、ノンオーガナイズド（組織化・企業体化していない小規模事業者）の廃棄物収集・集積業者をマッピング・統合し、彼らにより回収された高密度ポリエチレン及びポリプロピレンを一括して処理・再生プラスチック加工を行う。再生プラスチック資材は、FMCGや潤滑油大手ブランドに販売することで、プラスチックの循環型経済を実現する。この仕組みを活用することにより、大手ブランドは、政府の廃プラスチック管理規制の中で義務化された、拡大生産者責任を果たすことが可能となる。

ž   回収されたプラスチック廃棄物には、ラベルや印刷が残っており、これを洗浄し取り除く独自技術を開発した。また、洗浄に必要とされる大量の水についても、回収・リサイクルする管理システムにも投資し、今ではほぼ100%回収・再利用が可能となった、と主張している。将来的には食品パッケージへの展開も目論んでおり、インド食品安全基準局（FSSAI）の認可待ち（2023年4月時点）だ[x]。

ž   同社は、世界経済フォーラムのグローバルテクノロジーパイオニア賞（2021年）、Economic TimesのStartup Awardの社会企業カテゴリ（2022年）など、国内外で数々の賞を受賞している。

Felis Leo Ventures（商標：Nexus Power）[xi]

ž   オリッサ州出身の双子の姉妹が、祖父の古い生化学の本にインスピレーションを得て、農業残渣を使用したバッテリーの製作を開始。2020年のロックダウン中にバッテリーのプロトタイプの製造に成功し、事業化[xii]。

ž   原料は、農業残渣から抽出したたんぱく質であり、充電式のバイオ有機電池と生分解性電池は、同等の容量の既存バッテリーと比べ、8～10倍速く充電され、20～30%長く使用可能だという[xiii]。また、当バッテリーはリサイクル可能であり、製造プロセスの副産物として有機肥料とエタノールも生成され、それを販売することもできる[xiv]。

ž   同社も様々な賞を受賞しており、The Great Indian Startup Award 2023、第13回イージス・グラハム・ベル賞の「バッテリー技術革新」部門のファイナリスト、India EV Award 2022の「Star Battery TechnologyProvider of the Year」など、枚挙にいとまがない。

上記のスタートアップに共通しているのは、既存の製品やしくみをうまく活用し、新たな循環化経済を構築することに加え、副産物の再利用や販売、サービス利用者への環境貢献の手段提供といった新たな付加価値も提供することで、より多くの企業を巻き込む仕組みを作っていることだ。環境保全やリサイクルには、手間や時間、追加コストが壁となり、なかなか導入が進みにくいことも多い。これらを解決する糸口として、これら先行事例を見ていくのも一つの手だてだと思う。

[i]https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=1795071

[ii] https://chakr.in/

[iii]https://www.forbesindia.com/article/innovation/chakr-innovation-setting-the-wheels-in-motion-to-reduce-emissions-that-contribute-towards-air-pollution/87597/1

[iv]https://tracxn.com/d/companies/chakr-innovation/__uhQOWywo3KAlXBXiVxuCxWMruKC8eLULS0r6wbXpM28#about-the-company

[v]https://www.clairco.in/

[vi]https://www.forbes.com/profile/clairco/

[vii]https://yourstory.com/2022/01/clairco-improving-real-time-basis-indoor-air-quality

[viii]https://www.thehindubusinessline.com/info-tech/panasonic-to-fund-start-ups-enlite-and-clairco-under-ignition-program/article68002768.ece

[ix]https://www.banyannation.com/

[x]https://www.forbesindia.com/article/leadership-awards-2023/banyan-nation-climate-warriors-chipping-away-at-indias-plastic-problem/84261/1

[xi]https://nexuspower.in/

[xii]https://www.thehindu.com/sci-tech/technology/nexus-power-odisha-startup-bio-batteries-from-crop-residue-nikita-and-nishita-baliarsingh/article34474655.ece  

[xiii]https://www.linkedin.com/in/nikita-baliarsingh-10316a141/?originalSubdomain=in

[xiv]https://yourstory.com/2020/12/startup-bharat-bhubaneswar-based-nexus-power-ev-battery-startup  

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