インドのサービス市場全体は、2018-19年の名目GVA(粗付加価値)の54%強とされ、1兆3,564億9千万米ドルにのぼる。インド総雇用人数の31.5%がサービス業に従事している、という[i]。
インドインターネットモバイル協会(IAMAI)が2018年20月に発表したレポートによると、インターネットサービス市場は現在338億米ドルと、まだその規模は小さいものの、2022年には倍以上の764億米ドルに上昇し、新たな1,200万人の雇用を生む、としている[ii]。
市場の成長は、ECの市場規模推移にも表れている。デロイトとインド小売協会によると、インドのEコマース市場規模は2017年時点で240億米ドル規模。2021年には840億米ドル規模に到達する見込みだという。これに伴い、インドの小売市場規模は2021年には1兆2千億米ドルとなり、アジアで3番目、世界で4番目の市場規模となるとみられている。
市場動向
スマートフォンの普及もオンラインサービス市場をけん引している大きな要因の一つだ。前述のIAMAIレポートでは、スマートフォンは2022年には5億2,600万台と現在の1.75倍に増加すると予測されている。また、インドのモバイルアプリダウンロード数は2017年時点でアメリカを抜き中国に次ぐ2位に、その数は年間121億に上った。2022年にはその3倍以上の372億に到達するとみられている[i] 。
インドの年間モバイルアプリダウンロード数(単位:十億)
オンラインサービス市場が拡大するにつれて、関連産業における雇用も増加している。その数はアメリカの225万人、EUの210万人に対しインドは167万人となっており(2019年8月時点)、2016年5月から39%増加している[i] 。
モバイルアプリ産業の雇用者数(単位:百万人)
携帯アプリ産業の雇用人数が最も多い都市はベンガルールで362万人。次いでデリー、ムンバイ、ハイデラバードと続いた。100万人以上を雇用している都市は大都市が中心となっている。
モバイルアプリ産業の都市別雇用人数トップ9(単位:万人)
企業動向
下記に、新たなオンラインサービスに関係する企業の概要を挙げる。
・Urbanclap [i]
2014年創業、グルガオン拠点。提供するサービスは美容、スパ、グルーミング、修理、清掃、塗装、フィットネス・ヨガの7本柱で、これらの専門家を自宅や必要な場所に派遣する仕組み。インド17都市の他、オーストラリア、UAE、シンガポールでも展開。約2万5千人のプロフェッショナルが登録。派遣回数は500万件超で、サービスの平均レートも5点満点中4.7と高い。特に注力しているのは派遣プロフェッショナルの技術訓練で、50か所の訓練センターに100人の常勤講師がいる。同社の訓練センターはインド政府の職業訓練政策を推進する機関National Skill Development Corporation」の認証も取得している。2019年8月、米投資会社Tiger Globalから7,500万米ドルを調達し、累計投資調達額は1億8千万米ドルに、時価総額は9億3,500万米ドルとなった。2020年1月には「アーバンカンパニー」へのブランド転換を発表している。
・Housejoy[ii]
2014年創業、ベンガルール拠点。提供するサービスは建築、リノベーション、インテリア、清掃、美容、家電修理、害虫駆除など多岐にわたる。インドの13都市で展開しており、約1万人強のプロフェッショナルが登録、派遣回数は150万件を超える。2015年12月にはAmazonなどから2,300万米ドルを投資。2018年12月に印Matrixなどから324万米ドルを調達し、累計投資調達額は3千万米ドルとなった。2018年5月には40人を解雇するなど上述のUrbanclapと比較すると低迷しており、巻き返しを図っている。
2008年創業、ベンガルール拠点。クラシファイドプラットフォームを展開、国内1千都市でサービスを提供している。広告展開領域は自動車、携帯電話、家電製品、不動産、採用、ペット、教育など幅広い。米Tiger GlobalやスウェーデンKinnevikなどから累計3億5千万米ドルを調達している。創業当時は中古品の売買を仲介するプラットフォームだったが、今では価格交渉、支払、配送などフルサービスオプションも展開している。
現地消費トレンド
・外食や外国料理の人気が高まる一方で、家庭料理をコンセプトとするオンラインサービス企業もある。ノイダ拠点の「Homefoodi」は家庭で作られた家庭料理のデリバリー企業。主婦の雇用機会創出、健康で衛生的な家庭料理により健康になること、をコンセプトに掲げている。現在は首都デリー近郊のノイダに100人のシェフである主婦がいるが、数年で全国10万人にまで拡大する計画。包装容器にはプラスチックは使用せず、リサイクル可能な素材のものを使用している。2015年創業の「Authentic cook」は家庭での食事を含む料理体験を提供している。地域ごとに異なる多様な食文化を広めようと、ホストファミリーと利用者をオンラインでつなげる。創業から2年で国内10都市103カ所のホストファミリーで、2,300人以上の食事を提供、350人以上の料理教室を創出した。 旅行代理店のBooking.comから20万ユーロを調達、旅行客のアクティビティとしても人気となっており、リピート率は27%に上るという[iv]。
・ ペットの数が増えるにつれ、ペットサービスのオンライン化も進んでいる。2016年創業の「PetsApp」はペット関連サービスのオンライン提供を行っている。救急サービスやグルーミング、ペットホテルやペットタクシー、しつけサービスなどがアプリ経由で利用可能。その他の独特な機能として、ペット同士の出会い機能が付いており、登録写真やプロフィールをお互いに判断し、交流できる仕組み。創業者はデートアプリ「Tinder」のペット版だとしている[v-1] [v-2]。