コラム

インドの生鮮食品(ノンベジ)市場 – ベジタリアンが多いインドでも、近年は食肉や鮮魚の消費が増加、産直ECなども近代化も進む

Published on
Jul 9, 2021

市場規模

【ノンベジ生鮮食品】

インド調査会社Redseerによると、インドの食肉・魚の市場規模は2019年で3兆3,000億ルピー。成長率4.6%で2024年には4兆4,600億ルピーにまで成長すると予測されている。その内訳をみると、魚が7割を占め、次いで鶏(肉・卵含む)が16%、マトン11%と続く[i]

                             【2019年度ノンベジ生鮮食品市場規模内訳】

【食肉】

食肉については、公認の食肉加工業者4,000社(中央政府登録120社、州政府登録389社、食品安全基準局登録2,409社、残りはその他の政府機関)に加えて、2万5千社以上のアンオーガナイズドと呼ばれる未登録の中小・零細業者が事業を展開している[ii]

食肉生産量は鶏が最も多く、2018年度の生産量は460.2万トンと群を抜いている。次いで多いバッファローは154.6万トン、山羊109.8万トンが続く。

                            【2018年度のインド食肉生産(単位:千トン)】


輸出に関しては、インドはバッファロー(水牛)の輸出量が世界1位である。2014年度には過去10年間で最も多い147万5,000トンに達したものの、同年にヒンドゥー至上主義を掲げるインド人民党(Bharatiya Janata Party:BJP)のナレンドラ・モディ政権が誕生して以降、その輸出量・輸出額共に減少した。ヒンドゥー教では牛は神聖視されているため、バッファロー肉のみ輸出されていたが、モディ政権になると、牛の保護に関する法律の厳格化と共に自警保護団体がバッファローを扱う業者を攻撃するようになった。バッファロー加工業者が多いとされるウッタルプラデシュ(UP)州などで暴力事件等が発生したことが、輸出減少の背景にある。それでも毎年度130万トン超が輸出されており、インドの輸出産業を支える製品の1つである。

                                【バッファロー肉輸出量推移[iii]


【水産品】
インドの水産品生産量は、2019年には1,325万トンに到達した。2014年までは漁獲量の方が多かったが、2015年以降は養殖量が逆転し、その差は年々拡大している。

                              【水産品生産量推移(単位:千トン)[iv]

水産品生産で最も多いのは淡水魚で、32%、次いで底生魚の26%、遠洋海水魚の24%が続く。

                              【水産品生産量内訳(2019年)[v]

実はインドのノンベジタリアン率はさほど低くなく、様々な調査の結果を総合すると、ノンベジタリアン率は63-77%となる。2015-16年にかけて行われたNational Family Health Surveyの結果では、49%の男性、43%の女性が週1回以上肉または魚を食べているという。少し古いデータではあるが、2015年のOECDの一人当たり肉消費量は、世界平均33.8kgに対し、インド3.2kg[vi]と1/10に過ぎないため、今後のポテンシャルは大きい。

冒頭で紹介したRedseerでは、これらノンベジ生鮮食品の新たな販売ルートとして、オンラインの伸長を取り上げている。市場全体3兆3,000億ルピー規模のうち、オンラインはまだ70億ルピーだが、急速に伸びており、特に「スーパーバーティカル」と呼ばれる、特定商品に特化した、後述する生鮮魚・食肉のFresh To Home、生鮮食肉のLiciousなどがオンラインの8割以上を占めるという。これらは、従来の店頭販売に比べ、鮮度の良さ、衛生的であることに加え、品数の豊富さも選定要因としてあげられているという。同社によると、これらオンライン販売は、新型コロナウイルスの影響で2.5~3倍までに伸長、さらにこれらを利用することによる品質や信頼性への認知で、さらに存在感を増すだろう、としている。

最近の企業・市場トレンド

オンライン鮮魚・肉をオンラインで家庭に直送するFresh To Home, Liciousは好調であり、立て続けに大型資金調達を実現している。インド政府もこういったノンベジ製品をはじめとする付加価値製品の流通向上のため、コールドチェーン整備や水産品輸出拡大のための政策を発表している。

企業動向

・Fresh To Home [vii-1] [vii-2] [vii-3]
ベンガルル拠点の魚と食肉のオンラインマーケットプレイス。ベンガルルのほか、デリー(NCR)、ムンバイ、プネ、チェンナイ、ハイデラバード、ケララ州で宅配サービスを展開している。

インドでは、従来の商流で取引される魚は、港到着時に捕獲からすでに3週間~3カ月が経過しており、冷凍されるだけでなく、新鮮さを保つために多くの化学物質が添加されていた。同社はこうした仲買人を除き、漁師から直接調達、鮮度の高い製品を消費者に届けるシステムを確立した。2019年にはアラブ首長国連邦(UAE)にも進出している。利用者は約180万人、月間オーダー数は150万件。従業員や契約農家などの数は1万7000人に上る。年間売り上げ規模は60億ルピーで、2021年12月には150億ルピーに到達する見込みだ。

魚や食肉のほか、牛乳や野菜果実、小麦粉などの食品をデリバリーする新サービス「FTH Daily」を開始したが、「生鮮食品」にこだわり、日用消費財やグロッサリーへの展開は行わないという。

2020年10月にはドバイ投資公社などから、シリーズCの1億2,100万米ドルを調達。今後1年で展開都市を56都市まで引き上げる計画だ。

・Licious [viii-1] [viii-2]

2015年7月に創業した、ベンガルル拠点のスタートアップDelightful Gourmetが運営するオンライン食肉マーケットプレイス。安全と品質を第一に掲げ、小規模なコールドチェーンの構築と、情報技術を活用した需要予測を行うことで、インドにおける新たな食肉流通の拡大に挑戦している。鶏は1~1.2kgの重さのみ、羊は8~12月齢のみを扱うなど、販売製品の品質を均一化。多くの食肉店は重さを量った後で加工するのに対し、同社は加工後の重量で販売する。調達、加工、物流の全工程で0~5度の温度管理も徹底している。

2018年12月にはニチレイが1,500万米ドルを出資。同社が培ってきた品質・生産管理などの技術サポートを通じ、「Licious」の事業拡大に寄与する。

2021年7月には、シンガポールTemasekなどからシリーズFの1億9,200万ドルを調達、調達額は累計2億8,200万ドルにのぼる[ix]

政府政策トレンド

・2020年8月、インド食品加工省は新たに27カ所のコールドチェーン施設の新設を許可した。総事業費74億3000万ルピーのうち、20億8000万ルピーを補助金として拠出する。25万7900世帯の農家が恩恵を受け、1万6200人の新規雇用が創出される見込み。アンドラプラデシュ(AP)州、ビハール州、グジャラート州、ハリヤナ州、カルナタカ州、ケララ州、マディヤプラデシュ(MP)州、パンジャブ州、ラジャスタン州、タミルナド州、UP州に建設される[x]

・2020年9月、モディ首相は水産品の輸出を倍増し、新規雇用を創出するための産業振興政策「Matsya Sampada Yojana」を発表した。水産業振興政策としては、インド独立後、初めての大規模なものとなる。21州を対象とし、今後4~5年で2,005億ルピーが投資される計画であり、うち170億ルピー相当の事業は発表当日から開始している。既存設備の近代化や新規インフラを整備し、2024年度までに生産量を700万トン増加、輸出金額を1兆ルピーに引き上げを図る。

また、畜産についても、牛の出産は現状1年に1頭だが、さらに多産が可能になる体外受精技術の導入に言及した。プロジェクトの1つであるモバイルアプリ「e-Gopala」は、牛の個体と該当牛の生体識別認証Aadhaar(アダール)をリンクさせると、牛の健康および生育状況などの情報が管理できる仕組み。売買の際の情報源ともなりうることで、中間業者からの搾取を軽減することも可能となる。すでに口蹄疫およびブルセラ症予防のための無料予防接種を5億ルピー分実施し、より良い品質の動物飼料獲得のための準備も進めているという。

1947年から2014年までの畜産業への政府投資額368億ルピーに対し、2015年から6年間では2,600億ルピーが投資されており、政府の重点開発分野となっている[xi]

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