コラム

インド人材の最新事情~グローバルな社会・ビジネス環境の変化に伴い、求人環境が大きく変化~

Published on
Aug 19, 2024

ž   世界最大の人口と豊富な若年層を抱えるインドは、言い換えれば豊富な労働力を抱える国のひとつだ。その一方で、インドの雇用問題は大きな進展を見せず、モディ政権で推進されている国内製造振興政策も、期待するほどの雇用者増につながっていない。特に、若者層の失業率問題は深刻であり、高学歴層ほど失業率が高い、という状況は20年間変わらず、特に大卒以上の失業率は2000年の24.5%から2022年には28.7%と4%強の増加をみせている。

 

【ILO(国際労働機関)によるインド15-29歳の学歴別失業率推移[i]】

ž   一方、加速する気候変動、日進月歩のテクノロジーの導入と採用など、グローバルでビジネスや社会環境が大きく変化する中、インドにおける求人内容が急速に変容してきている。人材紹介プラットフォームTeamLeaseデジタルの「グリーン産業展望レポート」によると、インドのグリーン産業における雇用は、現在の1,850万人に対し、2024年度中に新たに370万人の雇用が増えると予想されている。しかし、この分野はまだ始まったばかりであり、要件を満たす人材はそれほど多くない。現在の雇用の多くは主に再生可能エネルギー関連産業だが、製造業や小売など、あらゆる産業において環境対応の必要性が急増しており、その分野での経験を持つ持続可能性マネジャーやESGアナリストが不足、人材育成が追いつかず、足りない状況にあるという[ii]。グリーンファイナンスの造詣が深い人材にも雇用機会が生まれている。

ž   これら人材育成のための教育機関も生まれている。2023年12月、IITカンプール校内に、インド初の完全統合型サステナビリティ・スクールが、KotakMahindra銀行との提携により開校した。「KotakSchool of Sustainability」と名付けられた高等教育機関では、持続可能性に関するさまざまなテーマについて、学部課程と大学院課程の両方でスキルアップのためのプログラムを実施する[iii]。

ž   2024年2月には、テランガナ州政府の情報技術・電子・通信部門が、バンガロール拠点のNPO1M1B財団とMoUを結び、ハイデラバードにグリーンスキル・アカデミーを開講すると発表している。対象は18歳以上でプログラムは1年間、TelanganaAcademy for Skill and Knowledgeとのパートナーシップにより、同州の700以上の大学で実施される。2030年までに100万人を育成することを目標としており、毎年上位10名には、ニューヨークの国連で毎年開催の1M1Bサミットでその成果を発表する機会が与えられる[iv]。

ž   また、テック人材が豊富と言われるインドでは、AIの登場で雇用が奪われるという懸念が大きく取り上げられていたが、最近では新たな雇用ニーズが生まれているという。全国ソフトウェア協会(NASSCOM)が最近発表したレポートによると、インドのテクノロジー・セクターは、今後2~3年の間にAIなどの高度なスキルを持つ100万人以上のエンジニアを必要とすることが予測されている。その一方で、これら知識を持つ人材は不足しており、同協会の最高戦略責任者兼上級副社長であるSangheetaGupta氏は、AI、ビッグデータ分析、サイバーセキュリティといった分野の仕事に就くためには、既存の労働力の半分以上を再教育する必要があり、大卒の新入社員では、必要とされる先端技術職の4分の1しか埋められないだろうと述べた。

ž   インドの大手IT・エンジニアリング企業は、従業員のスキルと業務で必要とされる要件の間に大きなミスマッチがあるため、ポジションを埋めるのに苦労している。タタ・コンサルタンシー・サービシズは前年度にAIに関するトレーニングを受けた従業員数を倍増させたにもかかわらず、今年7月には、スキルギャップのために8万人の雇用を満たすことができないと発表した。また、インド最大のエンジニアリング・建設会社であるLarsen& Toubroは6月、同社のITおよびIT対応サービス部門が2万人のエンジニア不足に陥っていると発表した[v]。

ž   こういった求人動向の変化は、生成AIの急速な導入と技術の進展が影響しているようだ。多くの大手IT企業が24年度の採用計画について明確な指針を示していない一方で、複数の人材紹介会社は、これら大手企業が大型契約を受注した結果、生成AIのスキルを持つ従業員需要が高まっている、と指摘している[vi]。

ž   AI人材については、スタンフォード大学がインドで急速に増加している点を指摘している。独自のAI指数を用いたこの分析によると、インドのAI人材はまだ相対的には少ないものの、2016年から23年にかけての成長率は、対象調査15カ国のうちトップだという[vii]。

ž   インド政府もAIへの注力を発表しており、2024年に発表されたIndiaAIミッションに、今後5年間で1,030億ルピーを超える予算をつけた。その一環として行われる教育プログラム「IndiaAIFutureSkills」は、大学および大学院レベルを対象とし、これら層へのAIプログラムへのアクセス性を高めることを目的に、主要都市だけでなく小規模な町や都市にもデータ・AIの基礎レベルのコースを提供するラボを設立するとしている[viii]。

ž   また、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といったグローバル企業のITサポートの中心であったインドは、徐々にGCC(グローバル・ケイパビリティ・センター=グローバル企業のIT、エンジニアリングやイノベーション・研究開発機能を担う)への転換が進んできたが、ここ1-2年間にGCC機能への注目度が高まり、グローバル金融機関や小売など、多様な業界がインドに拠点を設けており、その結果、GCCにおける求人が急増している[ix]。

ž   インド採用大手QuesCorpでは、今年度第1四半期(4-6月期)に、GCCの採用需要が前年同月比46%と大幅増を見せ、ITサービス企業からの採用需要を上回り、初めてトップとなった。GCCからの人材需要は60%を超え、ITサービスの給与を30-40%上回る金額が提示されているという。

ž   QuesCorpによると、この求人増は、グローバル企業によるインドへのGCCやイノベーションセンターの設立・拡大の増加傾向と一致している、と言及している。NASSCOMによると、インドには約1,600のGCCが存在し、この数は全世界の40%を占める計算になるそうだ。EYレポートによると、2030年には2,400にまで増加、雇用人数は現在の3倍近くの450万人に達するという予測だ[x]。

ž   インドをGCCとして活用するための、EOR(Employerof Record=進出していない企業に代わって現地法人で雇用を代理するサービス)や、BOT(BuildOperate Transfer=一定期間雇用と運営を代行し、運用が軌道に乗ったところで顧客企業の運用拠点として転籍させる)モデルでのGCC設立サポートも登場しており、インドでこれらサービスを展開する日本企業も登場している。

ž   インドは2020年の教育改革にあたり、現在の大学進学率24%を50%に引き上げようとしている。インドの労働者人口の増加傾向は続き、2036年に15-59歳人口は10億人近く二まで到達すると予測されている[xi]。さらに増加する高学歴人材をどう活用するか、自国もしくはインド国内で活用する方法など、いろいろな可能性を考えてみるよい機会になれば幸いである。

 

[i]https://www.dw.com/en/whats-behind-high-joblessness-among-indias-youth/a-68721599

[ii]https://economictimes.indiatimes.com/small-biz/sustainability/forget-a-career-in-tech-it-is-raining-jobs-in-climate-as-companies-navigate-a-new-business-environment/articleshow/105579417.cms

[iii]https://indianexpress.com/article/india/iit-kanpur-kotak-school-sustainability-run-ug-pg-courses-skill-building-9069342/

[iv]https://timesofindia.indiatimes.com/city/hyderabad/telangana-govt-inks-mou-with-1m1b-foundation-to-set-up-indias-1st-green-skills-academy-in-hyderabad/articleshow/107434801.cms

[v]https://economictimes.indiatimes.com/jobs/fresher/india-needs-1-million-high-tech-engineers-as-economy-expands/articleshow/111647851.cms?from=mdr

[vi]https://www.livemint.com/companies/it-services-revival-in-it-hiring-ai-genai-skills-tcs-infosys-wipro-hcltech-11720084845633.html

[vii]https://economictimes.indiatimes.com/tech/technology/india-leads-the-world-in-ais-skill-penetration-lags-on-investments/articleshow/109476169.cms?from=mdr

[viii]https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2012375

[ix]https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-06-15/RW81L8T0G1KW01

[x] https://economictimes.indiatimes.com/tech/information-tech/numero-uno-how-gccs-raced-to-pole-position-in-hiring-stakes/articleshow/111585710.cms?from=mdr

[xi]https://mospi.gov.in/sites/default/files/publication_reports/women-men22/PopulationStatistics22.pdf

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