2021年の「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」によると、インドの順位は156か国中140番目と非常に低く、前年から28位も順位を下げている(2020年は153か国中の順位)。労働者市場に参加している女性の割合は22.3%、男性とのギャップが72%と、他国に比べ群を抜いて高く、同地位の男女の平均賃金格差も46-49%と大きい[i]。同レポートでは、女性大臣の比率が2019年1月の23.1%から2021年同月時点で9.1%と大幅に減少したものの、女性が過去50年間に国家元首であった頻度が、全体平均よりも高い国としても記述されており、女性の社会進出についてはまだら模様を呈している。
インドの企業管理職に占める女性の割合は、中堅どころ企業では多くみられるようだ。2019年3月時点の、インド国立証券取引所(NSE)の上場企業における経営陣1,814名中女性は67名(全体の3.7%)[ii]にとどまるものの、Grant Thorntonが発表した「Women in Business 2021」レポート(29か国の中堅企業のビジネスリーダーが対象)では、シニアマネジメントクラスの女性の割合は39%と、全体平均31%を上回っており、中堅企業の47%が女性のCEOを擁している(対全体平均26%)、という。また、上級管理職に少なくとも1名の女性がいる企業は全体平均90%に対し、インドは98%となっている[iii]。上級管理職の女性在籍率の高さは、2013年に改正されたインド会社法による、一定規模以上企業には、1名以上の女性取締役の選任義務が課せられた[iv]ことが大きいが、企業内での女性活躍の場は徐々にではあるものの広がっているようだ。
世界で活躍したインド女性として、PepsiCoの元会長兼CEOインドラ・ヌーイ氏、ICICI銀行元CEOチャンダ・コッチャール氏等が有名であり、その後もメルマガで紹介した米副大統領カマラ・ハリス氏等に引き継がれているが、インド産業界にもインド人女性起業家が存在する。
Vandana Luthra [v-1] [v-2] [v-3]
Kiran Mazumdar Shaw [vii-1] [vii-2]
Ashwini Asokana [xi-1] [xi-2] [xi-3]
Aditi Gupta [xiii-1] [xiii-2] [xiii-3]
しかしながら、女性起業家のみによるスタートアップ数はまだ少ない。インド準備銀行(RBI)の2019年度の調査によると、スタートアップ創業者の性別内訳は、男性55.5%、女性5.9%であり、残り38.6%は男女混合での起業となっている[xiv]。上記で紹介したMad Street Den, Menstrupediaについては、夫婦での創業であり、こういった事例も含め、まだ女性のみの創業者で構成されるスタートアップの数はかなり限られている。Master Cardによる「女性起業家指数」でも、インドは57か国中52位に甘んじているのが実情である[xv]。
この背景には、資金調達の難易度においてもジェンダーギャップがある、とされており、こういった状況を改善するため、女性が主導するアーリーステージの新規ビジネスに注目した投資ファンドSheCapitalが2018年に創業された[xvi]。同代表のAnisha Singh氏は、インドおよびUAEのマーケティングプラットフォームmydata.comを創業、CEOを務めたのち、同ファンドを立ち上げた。米国や中国で近年増加している女性主導のビジネス・起業の波が、次にインドにも来ると予想しており、消費者ブランドやヘルス・ウェルネス分野での投資及びメンターシップに焦点を当てている[xvii]。
新型コロナウイルスの影響によるロックダウンや経済停滞により、全世界で失業、特に女性の失業率の高さが問題となっている。インドにおいても例外でなく、特に都市部の女性が打撃を受けているという。雇用は全体で見ると回復しており、インド経済監視センター(CMIE)のデータによると、2020年11月の総雇用数は前年同月の2.4%減にまで回復した。しかしながら、都市部女性についてみると、総雇用数は22.83%の減少となっている。同時点での失業者の求職率は67%だが、女性に限ると37%であり、在宅ワークの実現による雇用機会増よりも、学校閉鎖などによる子供の世話・教育などに加え、在宅による家事負担増などにより、改めて職を探す意欲を減ずる要因となっているという[xviii]。
前出のGrant Thornton調査では、在宅勤務やリモートワーク等、新たな雇用慣行が、長期的には女性のキャリア形成に役立つ、と回答する割合が、全体平均69%に対し、88%近くと多くみられた。また、前出のSheCapital創業者の発言にあるように、米国での女性スタートアップ創業者の急増に次ぎ、インドでも女性創業者が増加するだろう、といった見解も出てきている。時間はかかるかもしれないが、こういった見解や意識の変化が、インド女性の雇用やキャリアの向上へ結び付いていくことへの期待は大きい。