コラム

インドの女性社会進出状況ー中堅企業での女性幹部の多さ、グローバルでも著名な企業家・創業者の存在など、特筆すべき点も

Published on
May 7, 2021

2021年の「グローバル・ジェンダー・ギャップ・レポート」によると、インドの順位は156か国中140番目と非常に低く、前年から28位も順位を下げている(2020年は153か国中の順位)。労働者市場に参加している女性の割合は22.3%、男性とのギャップが72%と、他国に比べ群を抜いて高く、同地位の男女の平均賃金格差も46-49%と大きい[i]。同レポートでは、女性大臣の比率が2019年1月の23.1%から2021年同月時点で9.1%と大幅に減少したものの、女性が過去50年間に国家元首であった頻度が、全体平均よりも高い国としても記述されており、女性の社会進出についてはまだら模様を呈している。

インドの企業管理職に占める女性の割合は、中堅どころ企業では多くみられるようだ。2019年3月時点の、インド国立証券取引所(NSE)の上場企業における経営陣1,814名中女性は67名(全体の3.7%)[ii]にとどまるものの、Grant Thorntonが発表した「Women in Business 2021」レポート(29か国の中堅企業のビジネスリーダーが対象)では、シニアマネジメントクラスの女性の割合は39%と、全体平均31%を上回っており、中堅企業の47%が女性のCEOを擁している(対全体平均26%)、という。また、上級管理職に少なくとも1名の女性がいる企業は全体平均90%に対し、インドは98%となっている[iii]。上級管理職の女性在籍率の高さは、2013年に改正されたインド会社法による、一定規模以上企業には、1名以上の女性取締役の選任義務が課せられた[iv]ことが大きいが、企業内での女性活躍の場は徐々にではあるものの広がっているようだ。

世界で活躍したインド女性として、PepsiCoの元会長兼CEOインドラ・ヌーイ氏、ICICI銀行元CEOチャンダ・コッチャール氏等が有名であり、その後もメルマガで紹介した米副大統領カマラ・ハリス氏等に引き継がれているが、インド産業界にもインド人女性起業家が存在する。

Vandana Luthra [v-1] [v-2] [v-3]

  • 美容&ウエルネスセンターおよびパーソナルケア用品ブランドを展開するVLCCの創設者。1989年、デリーにてウエルネスセンターを創業後、その規模・業容を拡大し、現在ではインド国内に175のウエルネスセンター及びクリニックを運営するほか、南アジアの11か国に展開している。美容全般にとどまらず、最近では生活習慣病予防の生活管理サービスプログラムも提供している[vi]

  

Kiran Mazumdar Shaw [vii-1] [vii-2]

  • バイオ医薬品企業Biocon創設者。創業は1978年。工業用酵素会社からスタートし、現在は糖尿病をはじめとする様々な慢性疾患関連の医薬品開発に取り組み、インド最大のバイオ医薬品企業となった。世界120か国以上に貢献し、2020年6月にはインスリングラルギン注射で米国のFDA認可を取得している[viii]

  

Falguni Nayar [ix-1] [ix-2]

  • 美容EC Nykaa創業者。元は投資銀行であるKotak Mahindra Capital Companyのマネージングディレクターであり、自らの夢であった創業者になることから銀行を退職、2012年に美容専門のECサイトを立ち上げた。インドの美容ECサイトの先駆けであり、新型コロナウイルスの影響で遅れているものの、IPOを計画している[x]。現在では美容ECだけでなく、同化粧品ブランドの立ち上げ、実店舗を70近くインド主要都市へ展開するなど、その業態を拡大している。

  

Ashwini Asokana [xi-1] [xi-2] [xi-3]

  • AI技術を用いたクラウドベースのアパレルEC向けプラットフォームを提供するMad Street Denの共同創業者。元IntelでシリコンバレーにあるInteraction and Experience Research Labにおいて、モバイルinnovationチームを率いた経験を持つ。
  • 同社のVue.aiは、AIを用いた画像認識、クラシフィケーション、カタログ管理等の機能を提供するだけでなく、マーケティングデータの活用にも展開可能であり、2019年4月、シリーズBでFalcon Edge Capital、Sequoia Capital Indiaおよびグローバルブレイン(KDDI Open Innovation Fund2号より出資)より、計1,770万米ドルを調達した[xii]

  

Aditi Gupta [xiii-1]  [xiii-2] [xiii-3]

  • 女性の月経をテーマにした「Menstrupedia」の著者及び共同創設者。月経にまつわる迷信や誤った認識を打ち砕くため、同コミックを執筆し、夫とともに創業。同コミックは14以上の言語に翻訳され、6,000以上の学校で教材として使用されており、女性の月経への意識向上に貢献、2014年のForbes誌のインドを代表する30歳未満の30人を選出する30 Under 30に取り上げられた。

  

しかしながら、女性起業家のみによるスタートアップ数はまだ少ない。インド準備銀行(RBI)の2019年度の調査によると、スタートアップ創業者の性別内訳は、男性55.5%、女性5.9%であり、残り38.6%は男女混合での起業となっている[xiv]。上記で紹介したMad Street Den, Menstrupediaについては、夫婦での創業であり、こういった事例も含め、まだ女性のみの創業者で構成されるスタートアップの数はかなり限られている。Master Cardによる「女性起業家指数」でも、インドは57か国中52位に甘んじているのが実情である[xv]

この背景には、資金調達の難易度においてもジェンダーギャップがある、とされており、こういった状況を改善するため、女性が主導するアーリーステージの新規ビジネスに注目した投資ファンドSheCapitalが2018年に創業された[xvi]。同代表のAnisha Singh氏は、インドおよびUAEのマーケティングプラットフォームmydata.comを創業、CEOを務めたのち、同ファンドを立ち上げた。米国や中国で近年増加している女性主導のビジネス・起業の波が、次にインドにも来ると予想しており、消費者ブランドやヘルス・ウェルネス分野での投資及びメンターシップに焦点を当てている[xvii]

新型コロナウイルスの影響によるロックダウンや経済停滞により、全世界で失業、特に女性の失業率の高さが問題となっている。インドにおいても例外でなく、特に都市部の女性が打撃を受けているという。雇用は全体で見ると回復しており、インド経済監視センター(CMIE)のデータによると、2020年11月の総雇用数は前年同月の2.4%減にまで回復した。しかしながら、都市部女性についてみると、総雇用数は22.83%の減少となっている。同時点での失業者の求職率は67%だが、女性に限ると37%であり、在宅ワークの実現による雇用機会増よりも、学校閉鎖などによる子供の世話・教育などに加え、在宅による家事負担増などにより、改めて職を探す意欲を減ずる要因となっているという[xviii]

前出のGrant Thornton調査では、在宅勤務やリモートワーク等、新たな雇用慣行が、長期的には女性のキャリア形成に役立つ、と回答する割合が、全体平均69%に対し、88%近くと多くみられた。また、前出のSheCapital創業者の発言にあるように、米国での女性スタートアップ創業者の急増に次ぎ、インドでも女性創業者が増加するだろう、といった見解も出てきている。時間はかかるかもしれないが、こういった見解や意識の変化が、インド女性の雇用やキャリアの向上へ結び付いていくことへの期待は大きい。

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