インド調査会社CRISIL Researchによると、コールドチェーン市場規模は2017年で2,480億ルピー、年成長率13-15%で伸長し、2022年には4,720億ルピーに達すると予測されている。[i]
食品業界のグローバル化、輸送効率改善と廃棄ロス削減への関心の高まり、消費者のし好の変化により、インドのコールドチェーンは従来の低温倉庫を中心としたものから、生産地から消費者をつなぐ一貫した物流サービスへと急速に変化している。しかし、コールドチェーンインフラは不足しており、全国コールドチェーン開発センター(National Center for Cold-chain Development、以下NCCD)の2015年のレポートによると、冷蔵倉庫では既設の3,180万トンに対して330万トン、冷蔵車では既設の9千台に対して約5万台が不足している。[iii]
インドではコールドチェーンの不足により、年間農作物の40%が廃棄されている。[iv]インド政府は廃棄ロス最小化及び農家の収入増加を掲げ、食品加工産業省(Ministry of Food Processing Industries、以下MoFPI)が産地から市場までの総合的なコールドチェーンと貯蔵設備を構築する政策を行っている。この政策では、貯蔵や運送にかかわるインフラに対し、一般の地域で35%、北東州などの特定地域で50%の補助金を支給している。また、国内の総合的なコールドチェーンプロジェクトを始める場合、価値付加の分野では50%、加工の分野では75%、いずれも1プロジェクトあたり1億ルピーまで補助金を支給している。[v]
この政策のもと、MoFPIはこれまでに236のコールドチェーンプロジェクトを支援している。これにより、76.8万トンの冷蔵冷凍倉庫、1時間あたり215トンの個別急速冷凍設備、1日あたり1,104.9万リットルの牛乳の加工と貯蔵設備、1,400台の冷蔵車の設置を予定しており、これまでに39.8万トンの冷蔵冷凍倉庫、1時間あたり104.39トンの個別急速冷凍設備、1日あたり398.3万リットルの牛乳の加工と貯蔵設備、および591台の冷蔵車を設置した(2017年7月19日時点)[vi]。これまでの事業投資総額は616億ルピー、認可された補助金額は182億ルピーである(2017年8月18日時点)[vii]。
2017年7月から始まった新税制GSTにより、州境での税関がなくなったことで、トラックの運行効率はGST導入前の1日300kmから平均で1日250km増加して550kmになり、物流セクターに大きな恩恵をもたらしている。その一方で、特定の分野に対するサービス税の上昇に伴い、物流コストが増加した。[viii]農産物の貯蔵および倉庫保管に対してはGSTの課税は免除されているが、コールドチェーンインフラの構築及び倉庫サービスにはGST18%が課税される。民間企業は多くが倉庫サービスを利用しているため、実質、倉庫コストが18%上昇している。また、GST以前は、コールドチェーンインフラの建設や機器購入などに関する項目でサービス税免除や、5%の関税免除があったが、GST以後は免除の対象外となり、コストが上昇している。NCCDもそのような指摘をいくつか受領済みであり、農業省は、財務相や他関係部門に改善を要請している。[ix]
下記にインドでコールドチェーンを展開している企業を数社挙げる。
・Coldex [x-1] [x-2] [x-3] [x-4]
1996年設立、2005年にコールドチェーン部門発足。本社はグルガオン (ハリヤナ州)。インド全土で操業しており60カ所に支店を構えている。取扱商品は、乳製品、冷凍食品、医薬品、野菜、果物。主要顧客はTata Starbucks, Yum foods, Cadburys, Nestle, Danone, Amul, Subway, KFCなど。2017年12月には、インド北部・東部のマクドナルドを展開するCPRL(マクドナルド・インドとVikram Bakshi氏)の合弁企業がサプライチェーンパートナーとしてColdexを選出。
同社は2016年にアジア開発銀行と日本の金融会社のオリックスコーポレーションが共同運営しており香港に拠点を置くプライベートエクイティ会社のAsia Climate Partnersから25億ルピーの投資を受けた。この資金は全国の倉庫容量を増やすために使われる予定。2019~2021年のうちに株式公開を計画しており、2019年までに5万パレット分の倉庫容量拡大を計画している。また、従来の賃貸倉庫を自社倉庫に移行し、消費が最も多い場所に設立するとしている。
・Snowman [xi-1] [xi-2] [xi-3] [xi-4]
1997年設立。投資会社には三菱商事、三菱倉庫、ニチレイロジグループも含む。本社はカルナタカ州ベンガルルで、インド全土で操業している。取扱商品は海産物、野菜、果物、乳製品、加工食品、ファストフードなど。主要顧客はNestle、 Big Bazaar、 HUL。倉庫と輸送のほかに「Value Added services」として果物や野菜の仕分け・選別・パッキング・洗浄などのサービスも提供している。2015~2016年にかけて倉庫容量を8万5,500パレットから9万8,500パレットに拡大。今後もコーチに4,500パレット、クリシュナパトナムに3,500パレット、スリシティに5,000パレット分を拡大する予定。
2018年にはビジネスモデルを、それまで別々に行っていた物流サービスと倉庫サービスを統合、設備・資材の消費や従業員の労働パターン分析から、より効率的な経営に舵を切り、さらに2019年に向け、倉庫の新設など新たな設備投資を計画している。
・Livigo[xii]
2014年創業、本社グルガオン。物流テックのスタートアップ企業。ドライバーリレーモデルを採用し、ECやリテール、自動車、FMCGなどあらゆる分野に向けた物流のテクノロジーソリューションを提供。コールドチェーンにおいては24時間のリアルタイム監視システムでの温度および行程トラッキングにより、コールドチェーン配送のコストダウンおよび時間短縮化を実現できる、という。売り上げは2017年度40億1,800ルピー、前年度の約3倍となったが、損失も13億7,100万ルピーに拡大、新たな事業拡大と新規顧客拡大のため、大規模な資金調達を計画中。今までの累計調達額はTraxnデータで1億7千万米ドル近くにのぼり、今後の調達額は3億5~6千万米ドルの可能性とされている。
・TagBox [xiii-1] [xiii-2] [xiii-3]
2016年創業、本社ベンガルルのコールドチェーンモニタリングのスタートアップ企業。Tag360センサーを使用しIoTを基盤としたモニタリングと、高度な分析、自動制御を使用した包括的なソリューションにより、コールドチェーン全体をリアルタイムで見られるようにし、顧客が信頼性の高い持続可能なコールドチェーンを築くことをサポートする。これにより、製品の損害の削減、コンプライアンス要件の充足、エネルギーコストの削減、盗難の防止、貨物保険料の削減、輸送コストの最適化を行う。顧客は、医薬品業界、食品業界、乳製品企業、小売店、病院、レストランなど。スタートアップ支援のIndian Angel Network(以下、IAN)とIANファンドからの投資を受けている。
保冷剤の「アイスバッテリー」を扱う日本のベンチャー企業。2007年創業、本社は東京都千代田区。社長はインド人パンガジ・バルグ氏。運搬用ボックスにいれる「アイスバッテリー」は最長1週間、プラスマイナス25度の間の一定温度を保つ。ドライアイスより安価で湿度も保て、電気が不要のため停電が多いインドには最適だ。デリーでの顧客に加え、アンドラプラデシュ州や他地域にも進出する予定だ。
・国内最大のオンライン食料品店のBig Basket、大手スナックメーカーのHaldiram、共同組合大手のAmul、物流業のBalmer Lawrieなどが、310億ルピーの投資を伴う101個の国内コールドチェーン新設の承認を得た。これらのプロジェクトは、MoFPI主導の政策、コールドチェーンプロジェクトの一環であり、今後1年半~2年の間に開始され(2017年3月28日時点)、果物や野菜の廃棄の削減に貢献する見込みだ。投資予想額310億ルピーのうち、政府が83.8億ルピー、民間が226.2億ルピーを投資する。これらのコールドチェーンは、単なる独立した倉庫ではなく、農地での仕分けから加工、消費者への特別冷蔵車での輸送まで、3つの段階を含むものとなる。MoFPI長官によると、これらのプロジェクトで、27.6万トンの冷蔵冷凍倉庫、115トンの個別急速凍設備、1日あたり560万リットルの牛乳の加工設備、210トンの急速冷凍装置、629台の冷蔵・断熱車が追設される予定で、470万トン、1,200億ルピー相当の農産物がこれらのコールドチェーンプロジェクトで処理され、これにより廃棄物を13%削減するとしている。
コールドチェーンプロジェクトは、マハシュトラ州で最大の21件、ウッタルプラデシュ州で14件、グジャラート州で12件、アンドラプラデシュ州で8件、パンジャブ州とマディヤ・プラデシュ州でそれぞれ6件実施される。認可されたプロジェクトのうち、青果部門が53件、乳製品部門が33件、肉海産品物部門が15件となっている。[xv]
・2017年11月、Amulはバターの輸送で、インド鉄道(Indian Railways)の冷蔵貨物車の利用を開始した。提携のきっかけは同年10月下旬のSNS「Twitter」でのやりとりで、Amulが提携をもちかけ、鉄道大臣が即座に快諾。第1弾となる17トンのバターが11月中旬にグジャラート州パランプールからデリーに発送された。Amulは毎月1万トンのバターやチーズ、チョコレートやアイスクリームといった冷蔵品をグジャラート州からインド全土に配送している。主要な物流網はトラックによる陸路輸送だが、例えばアッサム州グワハティまではトラックで10日かかるのに対し鉄道輸送では36時間に短縮できる。鉄道輸送はトラック輸送よりも15~20%割高なものの、輸送期間の短縮化で得られるメリットは大きい。Amulは既に牛乳やミルクパウダー、テトラパック等の乳製品の普通貨物車での鉄道輸送を行っており、その年間輸送費用は10億ルピーに上る。今後は冷蔵貨物車の割合も高めていく計画だ。[xvi]
・大手小売業グループのFuture Groupは、2018年6月、ミルク・卵・パンの配達事業への参入を発表。まずは大都市限定でサービスを開始する。オーダーは携帯アプリ経由で、配送先から2-3km以内の同グループ傘下の小売チェーン「Easyday」、「Nilgirils」、「Heritage」から発送、毎朝配達する。この配達事業が軌道に乗れば、野菜、果物やグロッサリー配送といった取扱商品拡大も視野に入れている。この事業で、1店舗あたり月間200万ルピーの増収を見込んでいる。インドコンサル会社RedSeer Consultingによると、ミルク配達市場規模は12億米ドルで、その利益率は低いものの、ミルク配達で派生する、より高利益の商品の売り込みの可能性が期待できる、という。フードデリバリーサービス大手のSwiggy、ネットスーパーを展開するビッグバスケットなども、Supr Dairy、Daily Ninja, Milk Basketといった定期配送サービススタートアップと買収交渉等を始めている、という。[xvii]