コラム

インドロボット市場 -パンデミックでヘルスケアや農業にも商機拡大

Published on
May 4, 2022

国際ロボット連合(IFR)によると、世界のロボット導入台数は年々増加しており、2019年には前年から37万3千台増加し、272万2千台となっている。2014年からの年平均成長率は13%となっており、堅調な需要が続いている[i]

産業別のロボット導入台数(2019年までの累計)をみると、トップは自動車で92万3千台、次いで電子エレクトロニクスが67万2千台、鉄鋼・機械28万1千台、プラスチック・化学18万2千台、食品8万1千台と続く。自動車や電子産業では、労働集約的な生産工程は先進国を中心に自動化、機械化への迅速な切り替えが進んでおり、市場を牽引している[ii]

ロボットの導入台数が最も多い国は中国で、2019年の導入台数37万3千台のうち14万500台と、2位の日本、3位のアメリカを大きく引き離している。導入台数上位国は先進国が占めており、インドをはじめとする新興国では、その数は先進国の10分の1程度に留まっている。インドは2019年時点で4,300台だった[iii]

インドのロボット導入台数推移は、2018年は前年比39%増と急成長を遂げ、2013-2018年の年平均成長率は20%を超えた。2019年の伸び率は鈍化したものの4,300台となっており、この5年間で国内の導入台数は2倍に増えたという。産業別では、自動車産業が44%とトップを占めており、ゴム・プラスチック産業、鉄鋼産業、電子エレクトロニクス産業での導入が進んでいる[iv]

いくつかの調査会社の予測によると、インドの産業用ロボット市場は、2018-23年まで平均年成長率13%で推移[v]、その規模は2027年までに90億2千万米ドルに上る、といった予測も出ており[vi]、今後も堅調に増加していくことが予想される。

インドには、倉庫内の貨物輸送自動化で、日本にも進出を果たしたGrayOrangeが有名だが[vii]、対話型ロボットや清掃ロボットなど、様々なものが登場している。

Invento Robotics [viii-1]  [viii-2]  [viii-3]

2016年創業、ベンガルール拠点のロボットメーカー。創業以来8モデルのロボットを開発、現在の主力製品は対話型ロボット「Mitra」(ヒンディー語で友達の意)だ。2017年にインドで開催されたグローバル起業家サミットでは、モディ首相と米イバンカ・トランプ氏にお披露目され注目を集めた。発売当時は結婚式やパーティなどにおけるレンタル事業や銀行の顧客対応需要から収益を得ていたがパンデミックで状況が一変、病院からの受注が相次いだ。顔認識技術を用いて患者の氏名と顔を認知し、病院内やICU内を単独で歩行し、患者が遠隔の家族や医師とスムーズに連絡を取れるようサポートするなど、国内各地の病院でMitraが活躍している。

Milagrow Business & Knowledge Solutions [ix-1]  [ix-2]

2007年設立、グルガオン拠点のロボットメーカー。床掃除、窓掃除、プール掃除など多様なお掃除ロボットを中心に、接客用ヒューマノイドロボットを含め、幅広い用途のロボットを製造している。製品価格は6千ルピー台から400万ルピー台と幅広い。主力のお掃除ロボットは平均45,000~50,000ルピー。以前の納入先はホテルが中心であったが、パンデミックで、病院や商業施設といった業務用需要と、一般消費者からの需要が高騰した。一般消費者では利用者の25%を高齢者が占めているという。ロックダウンの緩和により、オフィスや美術館といったさらなる新規需要も開拓しており、2021年内に国内20都市へのエクスペリエンスセンターの展開、10万台の販売を目標に掲げている。同社によると、インドのお掃除ロボット市場は2025年には5億-7.5億米ドル規模に到達するという。

Miko [x]

2015年ムンバイ創業。子供向けのAI搭載コンパニオンロボットによる教育ツールを提供している。当ロボットは卓上型で、英語やスペイン語等4ヵ国語に対応している。メニューはパーソナライズが可能で、その子の感情、好き嫌いなどをAIで判断することもできる。スマホアプリと連携しており、スマホから保護者がロボットを制御・管理や、ロボットを介してのビデオ電話を実施することも可能。メイン市場は北米で、シリコンバレーにもオフィスを構えている。ロボットの価格は199米ドルで、その他にプレミアム教育コンテンツを組み込む場合は別途費用がかかる(年間99米ドル)。

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上記でもいくつか紹介したように、ヘルスケア市場において、ロボットの導入が進められている。前述のMilagrowのロボットは、デリーのAIIMS病院にも導入されており、大手民間病院チェーンFortisのベンガルール病院では、入り口にMitraロボットが導入されている。

外科手術においては2002年、国内初のロボット支援による外科手術がデリーで行われた。2018年には世界初のロボット支援による遠隔心臓外科手術がグジャラートで行われ、患者から32km離れた位置からの手術に成功している。インドのロボット支援外科手術市場は2024年には260億ルピー規模になると見込まれており、2025年までにはインドで行われる手術の半分がロボット支援となるとの予測もある。最近では、韓国との共同研究により、世界初の手術トレーニングロボットが開発された。ヘルスケアにおけるロボットは、手術、トレーニング、病院サービスなど、様々な用途で普及が進んでいる[xi]

農業用ロボットの研究開発も進められている。テランガナ州は、独自に農業用ロボット開発を推進しており、その具体的な用途として、肥料散布と除草作業に焦点を定めている。現行の肥料散布の手法では、肥料が効果的かつ効率的に散布できず、農場の立地によっては人力による散布が困難な場所も多い。除草についても同様だ。この課題解決に向け、コンピュータービジョン技術搭載のカメラ付ロボットの開発が計画されている[xii]

バンガロール創業のスタートアップTantanSenseは、AI搭載の農業用小型ロボットメーカーであり、内蔵カメラとAIシステムにより非常に高い精度を実現している。綿花農家向け雑草散布ロボット「BrijBot」は、除草コストを70%削減出来る。トラクター牽引式機械式除草機と散布機を兼ねた「BladeRunner」は、雑草を識別して正確に位置を特定し、機械的に根こそぎ除去するとともに、目的の作物にスポット的散布することができる。これにより、薬剤使用量を45%削減、除草効率が7倍に向上するという[xiii-1] [xiii-2]。時間と労働集約的な農作業を、マニュアルから正確なロボット作業に切り替えることで、生産性の向上、持続可能な農業の確立を図ろうとしている。

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