市場規模
インドのスポーツ用品市場は100年以上の歴史を誇る。輸出国としても地位を確立しており、国内生産のうち6割近くを輸出している。輸出額は2020年度には2億6,852万米ドルに到達している。主要輸出国は米国、中国、英国、オーストラリア、ドイツとなっており、その他UAE、オランダ、フランス、南アフリカ、スウェーデンなど、130か国以上に輸出している。グローバルへのスポーツ用品の信頼できるサプライヤーとしての地位を確立しており、イタリアのMitreやLotto、英国のUmbro、米国のWilsonといった外資ブランドからも製造拠点として注目を集めている。これらスポーツ用品の輸出振興には、スポーツ用品輸出促進カウンシル(SGEPC)がかかわっており、インドの200を超えるスポーツ用品メーカーを代表し、輸出促進を行っている[i]。
市場動向
スポーツ競技の多様化も市場拡大に寄与している。インドにおけるスポーツはクリケット一辺倒だったが、今ではサッカーやバドミントンなどの人気も高まっている。オンラインやデジタルメディアの広がりにより、各種スポーツの視聴が可能になったことと、オンラインでの結果速報なども容易に閲覧できるようになったことが、様々なスポーツへの興味関心の拡大につながっている[ii]。
スポーツ用品メーカーの集積地は、ウッタルプラデシュ州メーラトと、パンジャブ州ジャランダルの2か所であり、この2地域でインドのスポーツ用品生産の75-80%を占めるという。その他の生産地として、デリー、アグラ、ムンバイ、モラダーバード、チェンナイ、ジャンムー、コルカタなどが挙げられる。
ウッタルプラデシュ州メーラトは高品質のクリケット用品で有名だが、他にも卓球、ウェイトトレーニング&フィットネス用品、スポーツウェアなど、15のスポーツブランドの生産集積地ともなっており、生産拠点数は3,000カ所に上る。インドのスポーツ用品の輸出の45%を同地区が占めているという。インド全体の産業従事者数は50万人であるが、メーラトでは2万5000人が働いている。
パンジャブ州ジャランダルも古くからのスポーツ用品の生産集積地として有名だが、組織化されておらず、パキスタンや中国からの輸入製品との競争で劣勢となっている。
インドのスポーツ用品メーカーは中小・零細企業が多く、労働集約的である点が課題といわれるが、その一方で、取扱製品を容易に多様化できることが強みだ。ここ最近ではショッピングモールや公園に設置するアスレチックグッズやジム用品などの需要が高まっており、ニッチな市場であるものの、売り上げが急増している。顧客も、スポーツジムだけでなく、政府機関や大学、企業、研究機関など多岐にわたっている[iii][iv]。
インド政府は、2018年1月よりスポーツ振興政策「Khelo India」を推進している。国内の優秀なスポーツ競技人材の発掘や育成の他、学生・児童の体力醸成、競技環境の整備、スポーツアカデミーへの支援、スポーツインフラの創出およびアップグレードなどを掲げている[v]。目玉となっているのが毎年開催されるKhelo India Youth Games (KIYG)で、学生・若者層を対象とした他分野にわたる全インドのスポーツ競技会であり、U17とU21の2つのカテゴリで協議が行われる。また、Khelo India University Gamesでは、インド全大学のアスリートが参加可能で、2020年2月に第1回がオリッサ州カタックで実施された[vi]。
2020年10月には、チャッティースガル州の州都ライプールに、全寮制のホッケー選手養成学校を設立することが承認され、同時に陸上競技、水泳、レスリングの3種目を対象とした養成センターも、同州第2の都市ビラスプールに新設される[vii]。
企業動向
下記にインドのスポーツ用品市場に関わる企業を数社挙げる。
・Sareen Sports Industries [viii-1] [viii-2]
メーラト拠点、1969年創業の老舗クリケット用品メーカー。1979年より英国とオーストラリアへのバットの輸出を、1985年よりボールやプロテクターなど関連グッズの生産を開始した。国内外の著名なクリケット選手が同社のバットを使用しており、国際的にも品質の高いブランドとして認知されている。
・Nivia Sports[ix]
ジャランダル拠点の1962年創業の総合スポーツ用品メーカー。主力商品は各種ボールであり、インドのサッカー、バスケットボールプレイヤーにとっては、手頃な価格で非常になじみのあるブランドとして知られている。FIFAやインドバスケットボール連盟、全インドサッカー連盟、インドバレーボール連盟などのスポーツ団体とも関係している。最近ではスポーツウェアやフィットネス用品など、幅広い商品群を取り扱う。
・COSCO[x]
1982年創業の、デリー拠点のゴム製品を中心としたスポーツ用品メーカー。デリーの小規模雑貨店から始め、ゴム製品製造の工場を運営、その後グルガオンに新たに工場を設け、スポーツ用品の製造を開始した。1994年にはボンベイ証券取引所に上場を果たし、スポーツ及びフィットネス製品に拡大、現在は他社製品も含めSKU 1,000品目を超える商品を取り扱っている。従業員は650人以上、同社ブランド「COSCO」の他に、国内およびグローバルブランドの製品を、デリー、ムンバイ、グルガオン、パンジャブ州ジャランダルの4支社および800以上のディーラーネットワークを通じ、販売を行っている。
・アシックス[xi]
ハリヤナ州グルガオン拠点、2015年からインドでの営業を開始。2008年から「ムンバイマラソン」の公式スポンサーを務めている。ランニング、クリケット、テニス、バレーボール、バドミントンなどの分野でブランド強化を図っている。
・ヨネックス[xii]
カルナタカ州ベンガルル拠点、2016年にインド現地法人を設立。2017年4月に、国内で高まる需要を受け、バドミントンラケットの国内製造を開始。強度が高く、耐久性に優れるラケットを生産、販売している。
フランスのスポーツ用品小売店。57カ国に1,600店舗以上を展開している。インドには2009年にキャッシュ&キャリーの形態で進出し、2013年にシングルブランドの小売店として許認可を得た。10年で店舗数は75店舗に拡大した。2018年度の売上は1億9,210万米ドルで、インドのシングルブランド小売店としては、当時中国の携帯電話Xiaomiに次ぐ第二位の売上であった[xiv]。1店舗あたりの面積は1,700~1,800平方メートルある。インドでは特に自動化、クラウドといった最新技術の開発および導入に注力。無人化レジもローンチし、ストレスフリーな購買体験を提供している。将来的には店舗にIoT技術を導入し、店頭商品の最適化などにも意欲を見せている。
現地消費トレンド
・ドイツのPumaは、インド事業のブランド大使にボリウッド女優のKareena Kapoor Khan氏を起用した。彼女が“顔”を務めるのは2020年4月から発売される新アパレルコレクションで、ターゲットにヨガ、バレエ、ピラティスなどの愛好者を設定している。Pumaは他にもサッカー、ランニング、バスケットボール、ゴルフ、モータースポーツといったカテゴリで商品を展開。インド事業の売り上げのうち77%が実店舗から、うち50%はブランド専門店からだという[xv]。
・ハリヤナ州は、ゴルフに特化した投資の誘致を計画中だ。特に日系企業に注力する。2020年2月にはハリヤナ州政府と同州に拠点を構える日系自動車メーカーとのゴルフネットワーキングイベントを開催した。ハリヤナ州は日本人居住者も多く、日本人にとって住みやすい環境が比較的整っていることが強みだ。企業の進出状況は、生産拠点とコーポレート拠点のいずれも増加傾向にあり、ゴルフを介した日印間の経済関係強化を図る[xvi]。