「Pre-Loved(プレラブド)」という言葉をご存じだろうか。Pre(以前に)+Loved(愛されていた)を組み合わせたもので、以前の持ち主に大事に使われていたリユースアイテムを指す言葉だそうだ。
最近、インドでもこの「プレラブド」アイテムが注目されており、特に高級セグメントのブランドリユース品については、様々な形で流通経路ができている。またインド版Harper’s Bazaarでも、2023年10月にプレラブドのファッションアイテムを買うのにお勧めの店舗特集が組まれるなど、注目が集まっている[i]。
調査会社IMARC Groupによると、インドの高級セグメントにおける「プレラブド」市場は、2022年に5億5,500万米ドルにのぼり、2028年までに倍近くの10億6,080万米ドルにまで到達すると予測されている[ii]。この市場を構成するアイテムは、ハンドバッグ、宝飾品、時計、衣類、革小物、履物、アクセサリーなどに分類されるが、これらの中では、ハンドバッグがシェアの大部分を占めており、特に北インドがこの市場をけん引している。
これらプレラブドアイテムを取り扱うショップ(オンライン含む)を運営する側からも、近年のインドでの消費者の反応が大きく変化してきた、と指摘する。ムンバイを拠点とする「LuxuryPop[iii]」は2015年にスタート。創業者のPunitAnand氏は、自身や友人のワードローブで状態が良いまま眠っていた高級バッグを使って何かビジネスをする、というアイデアから当ビジネスを開始したが、当初は月1点しか売れていなかったものが、現在では月100-150点にまで増加したという。
同じく、プレラブドアイテムのオンラインマーケットプレイス「My Almari[iv]」の共同創業者NitiGoenka氏は、パンデミック後の2021年からわずか3年で65%という大幅な成長を見せた、と語る[v]。
市場急成長の背景として、パンデミックを経て、デジタルであらゆるところから情報を得ることが日常になってきた特に若者世代において、西洋のファッショントレンドの影響力が増大し、高品質かつユニーク、ストーリー性のあるアイテムへの欲求が起因しているという。それに加え、環境への関心の高まりが、再利用品への肯定的な考え方への変化につながっている。最近では、これらアイテムを自分のスタイルを表現する手段としてだけでなく、取引可能な資産としても見始めている消費者も登場しているようだ。
高級中古車の需要も増加している。インドにおける高級車販売はまだ数が少ないものの、ポルシェ、ランボルギーニは2022年にインドで過去最高台数を売り上げ、メルセデスは2023年の第1四半期に過去最高の4,697台の売上を発表した[vi]。
その一方で、輸入中心の高級車は、もとの高価格に加え、さらに高額な税金が課せられており、インド政府は2023年度に完成品ユニット(CIF評価額4万米ドル未満)の自動車輸入税を60%から70%に引き上げることを発表した[vii]。
関税引き上げなどに伴う高級車の価格上昇は、高級中古車へのシフトにもつながっている。
インドの中古車市場全体は活況を示しており、中古車仲介を行うCar24のCEO Vikram Chopla氏は、2023年に250億米ドルの市場規模が2034年には1,000億米ドルを超える、と語っている[viii]。中古車の流通は大都市を中心に活発化しており、高級車の取り扱いも増加している。中古車販売プラットフォームを運営するSpinnyの創業者兼CEOのNiraj Singh氏は「高級中古車セグメントは大幅に増加しており、インドにおける年間販売台数は6万台と推定されている。これは高級車の新車販売台数の約1.7倍に相当する。アウディ、メルセデス・ベンツ、BMWが消費者間で人気のブランドとして浮上しており、最近はJaguarLand Rover(JLR)やVolvoなども需要が出てきている」と語る。
高級車ブランド自身による中古車市場への参入も進んできている。ポルシェは2022年にインドの中古車市場に進出した。ポルシェの提供する中古車承認プログラムでは、111項目の厳格な検査に合格した車両のみを扱い、最低12か月の包括的な保証がつき、さらに24時間ロードサービスの利用が可能だ[ix]。アウディの認定中古車も、サービスパッケージと2年間の保証が提供されている。
BMWインド支社は、2023年にインドでの最高売上高を記録したが、新車販売の伸びと並んで中古車販売も大きく伸長し、売り上げ増に貢献している。中古車販売は2023年には前年比32%増加し、過去最高の水準に達したという。BMWグループ・インドのVikram Pawah社長は、「新車と中古車双方を取り扱うことにより、プレミアムに近い顧客を高級ブランドにアップグレードするとともに、既存の高級顧客をさらに高額なレンジにアップグレードすることで、最高売上高を達成した」と述べた[x]。
このほかにも、高級車会社による、認定中古車事業の成長が報告されている。JLRの同事業売り上げは、2024年度第1四半期に37%の増加を発表、アウディは2023年上半期に53%の成長を報告している。メルセデス・ベンツ・インドの中古車認定事業は、専用オンラインストアで顧客への選択肢を増やし、2022年に35%の成長を遂げるなど、順調にその売上は推移している[xi]。
現在、中古高級車市場は、大都市圏を中心とした需要となっているが、最近Tier2都市と呼ばれるより小規模な都市での伸びが確認され始めているという。メルセデス・ベンツ・インドのMD兼CEOであるSantosh Iyer氏は次のように語っている。「主要都市の中古車事業の売上は約60%を占め、引き続き注力する成長市場である。しかし、より小規模な都市部の裕福な顧客が、中古メルセデスのアップグレードと選択に強い関心を示しているのを目撃するのは心強いことであり、当社の認定ビジネスに新たな成長の道が開かれるだろう。」[xii]
高級ブランドの価値を認め、それを合理的により安価な金額で入手しよう、という流れは今後もさらに拡大することが見込まれる。高級車においては、メーカー自身が中古車を活用することで、顧客のすそ野拡大にもつなげるなど、柔軟な戦略でインド市場を開拓している。
[i] https://www.harpersbazaar.in/fashion/story/stores-to-buy-pre-loved-luxury-697635-2023-10-21
[ii]https://indianexpress.com/article/cities/mumbai/around-town-mumbaikars-are-game-for-pre-loved-luxury-8684483/
[iii]https://www.theluxurypop.com/
[iv]https://myalmari.in/
[v] https://www.indiatoday.in/lifestyle/society/story/gen-z-and-millennials-are-making-pre-loved-luxury-better-than-the-real-deal-2499706-2024-02-10
[vi]https://www.prnewswire.com/in/news-releases/spinny-on-the-growing-demand-for-pre-owned-luxury-cars-in-india-301846023.html
[vii]https://www.siam.in/economic-afairs.aspx?mpgid=16&pgid1=18&pgidtrail=20
[viii] https://economictimes.indiatimes.com/industry/auto/auto-news/a-mini-industry-spawns-under-the-hood-of-a-booming-car-market/articleshow/108263386.cms?from=mdr
[ix] https://economictimes.indiatimes.com/industry/auto/auto-news/a-mini-industry-spawns-under-the-hood-of-a-booming-car-market/articleshow/108263386.cms?utm_source=contentofinterest&utm_medium=text&utm_campaign=cppst
[x] https://www.livemint.com/companies/news/at-bmw-first-time-buyers-take-a-second-hand-route-11704997758134.html
[xi]https://www.thehindubusinessline.com/companies/jlr-sales-double-with-102-growth-in-q1-fy24/article67115210.ece
[xii]https://www.thehindubusinessline.com/economy/demand-for-pre-owned-luxury-cars-rise/article67115838.ece