コラム

インドスタートアップ市場 ~米・中に続くスタートアップエコシステムを持つインド、累計1万5千社を超えるスタートアップ企業は今後もさらに増加~

Published on
Feb 11, 2019

市場概況

インド政府は、スタートアップの定義を①会社登記から7年以内(バイオテクノロジー企業は10年以内)、②株式会社(Private Limited Company)・合資会社(partnership firm)・有限責任事業組合(Limited Liability Partnership)のいずれかの形態であること、③設立からの年間売上高がいずれの年も2,500万ルピー以下であること、④製品・プロセス・サービスの改革・開発・改善に携わっていること、または、雇用あるいは資産を創出する拡大可能な事業モデルであること、と定義している[i]

インドのスタートアップは2010年時点では500社も満たなかったが、3年間で4.5倍以上に伸び、2016年には4,700社を超えている[ii]

政府発表によると、2019年1月のスタートアップ承認数は666社、2月時点で累計15,795社のスタートアップが承認されている(2019年2月7日時点)[iii]

スタートアップの拠点が最も多い都市はベンガルールで25%、次いでデリー21%、ムンバイ14%と続く(2018年)[iv]。上位3大都市圏でスタートアップの6割を占めている。この割合は2017年の68%[v]から減少しており、その代わりに他都市のスタートアップが増加。コルカタ、プネ、ハイデラバード、チェンナイが成長都市、チャンディガル、ジャイプール、アーメダバード、インドール、ケララなどが新興都市となっており、インド全土でスタートアップの機運が高まっている。

2013~2018年の間に創業したテック系スタートアップの数は7,200~7,700社。その業種別で最も多いのはエンタープライズで16%。SMBなどを含む様々な企業内の課題解決を目的とするSaaS企業が多い。フィンテックは政府のキャッシュレス支援が追い風となっている。マーケットプレイスはインターネットの普及が後押し、ヘルステックは低価格の医療機器の開発、エド(教育)テックは若者人口の増加がけん引している[vi]

テック系の中でも、最新技術を事業とするスタートアップは1,200社以上。その内訳はデータ分析27%、IoT26%、AI24%と続く。ブロックチェーン分野のここ5年間の創業者数成長率は100%超、AI分野は54~58%と勢いのある分野だ[vii]

2018年は8社のユニコーンが誕生。過去最も多い数となり、その累計数は18社となった。世界的にもアメリカ126社、中国77社に次ぐ数となっている。2020年までにさらに10社のユニコーンが誕生するとみられている[viii]

※2019年予想は、2019年(同年中)にユニコーンになると思われるスタートアップを含む

インドのスタートアップに対する投資額は、2017年の20億米ドルから2018年は108%増の42億米ドルに伸びた。一方、シードステージの資金調達は、2017年の1億9,100万米ドルから2018年は1億5,100万米ドルに下がった。シードステージの資金調達減少は各社のイノベーションに影響するとし、回復が期待されている[ix]

また、政府は海外との提携も積極的に進めている。下記にイスラエルとオランダの提携概要を挙げる。

・イスラエル

2017年7月、二国間で初となるCEOフォーラムがイスラエルのテルアビブで開催、50億米ドル相当の署名が締結された。二国間貿易額を2022年までに4倍の200億米ドルに引き上げることを目標に、スタートアップ、製薬、生命科学、安全保障、農業、電力・水の6分野での協業合同委員会が設立された[x]

同時期に発表されたスタートアップ支援政策「India-Israel Innovation Bridge」は、インド政府のスタートアップ支援「Startup India」の一環で、対象企業はインド企業とイスラエル企業。デジタルヘルスケア、農業、水の3本柱で、デジタルヘルスケアではリアルタイムモニタリング、農村向け低コスト診断、農業では農業廃棄率の低減と収量及び農家収入向上へのソリューション、水では低エネルギー・低コストの水処理と安全な飲料水供給のための安価なソリューションの、各分野2つの課題に対し募集を行った。最優秀企業にはインドスタートアップに20-50万ルピー、イスラエルはパイロット事業のための投資機会が贈呈、それぞれの3分野で6社ずつ、合計18社が選出された[xi]

・オランダ[xii]

2018年5月下旬、オランダのマルク・ルッテ首相がインドを訪問した。過去最大規模の120人のビジネス代表団を引き連れ、25日にはベンガルールを訪問。そこで二国間のスタートアップ支援政策「StartUpLink」が発表された。同政策はインドの「Startup India」に則り、オランダのスタートアップがインド市場で事業を展開するための情報やネットワークの提供、エコシステムの活用などで協働する。「StartUpLink」に先駆けてインドでエネルギー関連のスタートアップ支援プログラム「Shell E4 Start Hub」を展開しているロイヤル・ダッチ・シェルがパートナー。ほかにも、ハイテク分野や宇宙工学、スマートシティ、生命科学、ヘルスケアなどが注力分野となっている。これらインド・オランダ代表団により計53のMoUが締結、経済効果は1億7千万ユーロ規模だという。

企業動向

下記にインドでスタートアップとして注目され、その後大きく成長しユニコーン企業となっている会社を幾つか挙げる。

・Flipkart Internet[xiii]

2007年10月設立、ベンガルール本社。80超のカテゴリーで8千万以上の商品を取り扱うインド最大級のEコマースサイト「Flipkart.com」を運営する。登録ユーザー数は1億人以上、1日のページアクセス件数は1千万件、月間配達可能数は800万件、セラー数は10万社、21の倉庫を持つ。2014年にはアパレルEコマース大手Myntraを買収している。2018年5月には米小売大手ウォルマートに買収されている。

・Jasper Infotech [xiv]

2010年2月設立、デリー本社。2014年にユニコーンとなった。3,500万以上の商品を取り扱うインドEコマースサイト「Snapdeal.com」を運営する。ブランド数は12万5千以上、セラー数は30万社、配達可能都市は国内6千か所以上。ソフトバンク、シンガポールTemasek、台湾Foxconn、中国Alibaba、米Ebayなど外資大手から出資を受けている。

・Paytm Mobile Solutions[xv]

2009年11月設立、デリー本社[xvi]。電子決済ソリューション「Paytm(Pay Through Mobileの略)」を開発、提供している。2015年にユニコーンとなった。Paytmで支払が可能なサービス・店舗数は700万件以上。ソフトバンクやAlibabaグループなどが出資している。2018年内には月間トランザクション数は20億件、額にして6千億ルピーに到達するとみられている。さらなる機能強化のため、今後3年で500億ルピーの投資を発表している[xvii]

・Zomato Media[xviii]

2008年設立、レストラン検索サイトおよびアプリ「Zomato.com」を開発、提供している。2018年にユニコーンとなった。レストラン検索だけでなく、オンラインフードデリバリー、テーブル予約、ゴールド会員限定プログラム「Zomato Gold」など多様なサービスを展開している。24か国に展開、掲載レストラン120万件、月間配達数は1億2千万件、サイト掲載写真は3千万枚、レビュー数は1千万件以上。「Zomato Gold」はポルトガル、UAEに続き2017年11月にインドでも発表された招待制のプログラムで、対象都市はデリーNCR、ムンバイ、ベンガルールを含む5都市で登録者数は20万人以上(2018年4月時点)、50万人が順番待ちで、同社の月間売り上げの12%を占めるまで成長している[xix]。同プログラムのサービス費用は3タイプ、サービス利用3回分200ルピー、10回分500ルピー、1年間使い放題が1,200ルピーとなっている[xx]。会員は対象レストランで無料の食事や飲み物を飲食できるほか、ワインテイスティングや新メニューのお披露目会など、会員限定のイベントへの招待も受けられる[xxi]。2017年の売上高は前年比45%増の7,400万米ドル、アリババやソフトバンクが投資を計画中だという[xxii]

・Byju’s[xxiii]

2011年創業、ベンガルール拠点の数学のeラーニング企業。2015年に学生向けのeラーニングアプリケーション(アプリ)をローンチ、2016年にはアジア企業として初めてフェイスブック最高経営責任者(CEO)のザッカーバーグ氏と妻プリシラ氏が設立した財団「チャン・ザッカーバーグ・イニシアチブ(CZI)」から資金援助を受けている。2018年にユニコーンとなった。クラス4~5(初等学校高学年向け)、クラス6~10(上級初等学校および中学校向け)、クラス11~12(高校向け)の3コースを展開している。登録生徒数は2,000万人、有料サービス利用者数は126万人に及ぶ。1人当たりの平均アプリ学習時間は1時間程度だという。2015年以降の3年間は年間売上高が前年比100%増で伸びており、2018年度は140億ルピーを目標に掲げている。同社はサービスを米国、英国、オーストラリアといった英語圏にも拡大する計画で、2018年7月にはさらなる増資のためにソフトバンクをはじめとする投資家と協議中と報道されている。2億~2億5000万米ドルを調達するとみられており、この増資が実現すれば、同社の総資産額は20億米ドルとなる見込み。インド国内事業も強化しており、600人を新規雇用、特に中小都市圏に注力する計画[xxiv]

・Oyo hotels and rooms[xxv]

2013年創業の格安ホテル運営会社。2018年にユニコーンとなった。当時19歳だった創業者Ritesh Aggarwal氏が、個人経営で品質基準がばらばらだったインドの低価格ホテルのチェーン化に事業機会を見出し起業。既存ホテルやビルのオーナーと契約し、基準に合った設備・清潔度に改装、価格設定を含めたオンライン予約サービス・各種経営用アプリ・マネージャー派遣・研修などのサービスを提供する見返りに、フランチャイズ料や収益分配を受け取るモデルで成長してきた。設備投資はオーナー側の負担のため、同社は各ホテルへの設備投資抜きで大量出品が可能という仕組みだ。同社の高速成長のカギは、ITを駆使した運営だ。約8,500人の社員のうち、700人超がデータ科学・人工知能(AI)・ソフトウエアなどのIT技術者だという。進出した地域の宿泊需要データをAIで常時分析し、すべての空室の料金を個別に常時変化させている。また、地域内での需要のミスマッチを最小化すると同時に、その地域内のホテル全体の稼働率を最大化する。さらに、経理・予約・清掃管理などホテル運営に必要な機能をスマートフォンのアプリにしたことで、オーナーはスマホ1台で経営が可能だという。

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