コラム

インドの海外旅行市場~アウトバウンド旅行国のトップ3も目前、海外旅行消費金額も過去最高に~

Published on
May 8, 2023
  • インドの旅行・観光市場は、回復からさらなる伸長傾向に変換している。World Travel & Tourism Councilの調査によると、旅行および観光部門のインド経済への貢献割合は、2024年にはパンデミック前の水準を上回り、前年比20.7%の成長を遂げる見込みだという[i]
  • 目立っているのが、インド人の海外渡航者の増加だ。入国管理局の発表した2022年1月~11月までのインド人の出国者数は1,800万人を超えた。パンデミック前のピーク時2,691万人には及ばないものの、年間で2,000万人を超えると予想され(最新データは不明)、2021年の772万人を大幅に上回った[ii]。IPKインターナショナルが発表する「World Travel Monitor」調査結果でも、インドの海外旅行の2022年の前年からの伸長率は190%と、世界平均90%を大きく上回った、と報道されている[iii]
  • グローバルホテル予約サイトAgodaのCEOによると、インドは今後数年間でアウトバウンド旅行のトップ3国に入る可能性があり、アジアの中では中国に次ぐ支出になるだろう、と予想している[iv]
  • インドのオンライン旅行会社Cleartripでは、今年3月の海外ホテルの予約数は前年同月比の3倍、4-5月においては3.7倍に跳ね上がった。彼らの分析によると、4月16日~7月15日の期間における海外ホテル予約は、昨年同期比の約230%増と推測され、ここでも大幅な海外旅行拡大が見て取れ、今後、インドの海外旅行市場における重要度がさらに増していくことがうかがえる。
  • 海外旅行支出もそれに伴い大きく伸びている。インド準備銀行が今年1月に発表したデータによると、2022年4月から12月までの9ヶ月間の海外旅行への総支出額は99億4,700万米ドルと、過去最高値を記録した。旅行支出全体のうち、海外旅行の占める割合は、前年度の35%から51%にまで上昇した。当記事を発表したTimes of Indiaによると、35%はパンデミック前の水準であり、それを大きく上回ったことになる[v]
  • Airbnbにおいて、2022年第3四半期にインド人が最も検索した旅行目的地は、ドバイ、ロンドン、パリ、トロント、ニューヨーク[vi]だったが、従来から人気のあるこれらの国は、旅行費用の高騰が進む一方で、安価でアクセシビリティが高まったベトナムが最近人気だという。ベトナムは2017年2月から電子ビザ処理を導入し、3営業日で30日滞在のビザ発行が可能となっている[vii]。さらに、インド直行便の増便を進めており、2022年6月に就航したデリー – ハノイ、デリー – ホーチミン便を3月26日から週5便を週7便(ハノイ4便+ホーチミン3便)に増加[viii]、加えて今年6月にはSkyTeamのアライアンスでムンバイ直行便を就航する企画を発表している[ix]
  • オーストラリアへの観光客も増加しているようだ。2022年5月のオーストラリアへの旅行者数は、ニュージーランドからの46,700人に次ぎ、インドが2番目に多い31,600人を記録した。この時期はまだオーストラリアがCOVID-19の陰性検査結果の提出を義務づけている期間だったにもかかわらず急増、6月時点でのビザ申請はパンデミック前の50%増にのぼった。2021年にカンタス航空がデリー – メルボルン直行便を就航し、2022年9月にはバンガロール – シドニー便が就航、これにより、インドからオーストラリアへの直行便は、エア・インディアを含め計22便になるという。
  • そのほか、インド近隣国で人気があるのはタイ、シンガポール、マレーシア、モルディブ、UAE、サウジアラビアなどがあげられ、オンライン旅行会社MakeMyTripは、UAEまでの5カ国を、近隣の海外旅行先国トップ5としてあげている。
  • モルディブについては、パンデミック以降、大きな人気を博している。インド人の海外渡航者数が最大であった2019年のモルディブ渡航者数は203,469人、2020年には8万人台に落ち込んだものの、2021年には317,202人と、2019年から10万人を超える大きな増加を見せている[x]。2019年と比較し渡航者数が増加した唯一の国でもある。モルディブの人気の背景には、パンデミックによる観光客の激減をカバーするため、インドに対する大々的なキャンペーンを行ったことにあるようだ。若い売り出し中の女優やインフルエンサーが、SNSなどで写真を拡散することを条件に無料で招待され、旅行代理店は低価格で高級リゾートの部屋を販売することが許可された。その結果は予想を上回るもので、元々渡航にビザが不要であることも後押しし、インド人旅行客が殺到した。
  • その後、パンデミックによる渡航制限解除とともに、価格は元に戻ってきたにもかかわらず、有名なボリウッド俳優が、モルディブで妻や子供の誕生日を行った等の話題で注目を集めており[xi]、その影響でその人気はさらに高まっている。高級リゾートへのインドの需要に気づいたモルディブ側も、インドを可能性が大きい市場として、パンデミック時の短期的なプロモーションに取って代わる長期的なアプローチを検討しているようだ[xii]
  • 海外旅行の傾向として、以前より長い日程の予約が増えている。MakeMyTripによると、海外旅行パッケージツアーの平均宿泊日数は、今年4-6月期で、前年同期比27%増、パンデミック前と比較すると85%も上昇した、という。「航空運賃の値上げも需要を押し下げる要因にはなっておらず、航空券とホテル代によりお金をかけようとする傾向もみられる」と、オンライン旅行サイトのixigoのCEOは語っている[xiii]。その目的も以前に比べ、知られていない場所・地域への志向や、よりオーダーメイドでユニークな体験を求めた旅行など、パーソナライズドされたものに変わってきている。また、スロートラベル、海や山など自然を体験する旅行、環境に配慮した旅行など、多様化している。これらは国内外問わず増加しているという。
  • ひるがえって、日本へのインド渡航客の状況はどうだろうか。以下は、JNTOの発表している訪日外客統計から抜粋したものだが、数は2019年の175,896人をピークにパンデミックにより減少、2022年は2019年の30%までに回復、2023年は1-3月の3ヶ月で3万人に達するものの、全訪日外客に対する比率は現時点で2019年と同じ0.6%にすぎない。

  • JNTOデリー事務所は昨年10月、デリー、バンガロール、ムンバイの3都市で観光セミナーを開催、日印の旅行関係者が参加した。富士山や京都など、日本の主要観光地だけでなく、最近のインド旅行客の自然やアウトドア、知られていない地域への志向の変化を取り入れた、主要観光地以外の地域や特別な体験のできる場所のアピールなどで、さらにインド観光客誘致につなげたい意向だ。これら戦略は、インドの旅行・海外旅行需要の変化と一致している。より多様な旅行先を探索するインド人へ、これらをアピールすることで、訪日インド旅行者の増加につながることを期待したい。
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