コラム

ギグワーカーのゆくえ―需要増に伴う従事者が増えるの中、社会保障などの法整備が徐々に進む

Published on
Mar 10, 2025

パンデミック以降、ギグエコノミーがグローバルで注目され始め、インドではラストマイル物流・旅客輸送や家庭向けサービスプラットフォームの台頭により、ギグワーカーが急増している。

政府系シンクタンクNiti Aayogが2022年に発表したレポートによると、2019-20年度のインドのギグワーカー数は680万人から翌年度には770万人に増加、2029-30年度には2,350万人にまで増加することが予想されている。この人数は非農業の労働者人口の6.7%に到達するという[i]

 

この市場拡大を後押ししたのは、プラットフォーム・アプリを通じた多様なサービスの拡大にある。増加するEコマース利用に伴い、D2Cブランドの登場、クイックコマースの台頭などで物流需要が堅調に拡大を続けており、Ola CabやUberといった、配車サービスも活況だ。また、サービスのオンライン移行により、Urban CompanyやHousejoy、Helperといった、ホームクリーニングや修理などの技術者や、ホームサロン(美容など)の施術者の派遣プラットフォームも数多く登場している。

 

さらに、日本でも隙間時間のワークや、デザイナーや翻訳などのスキルワーカーの紹介プラットフォームが複数登場しているが、インドにもそういったサイトが複数登場している。

 

Truelancer(https://www.truelancer.com/)

2014年創業の、当業界では先駆けの企業のひとつだ。120カ国以上からの登録者があり、登録フリーランサー数は200万人を超える。業務範疇は、SEOスペシャリスト、コンテンツライティング、ウェブ開発、デザイン、セールス&マーケティングなど多岐にわたる。主に大企業とフリーランサーをつなげることに焦点を当てている。AIによるフリーランサーのスコアリングによる自動選抜、カスタマイズ可能なAIリクルーターも提供している。プライムサービスでは、プレスクリーニングされた人材へのアクセス、希望する人材の詳細をヒアリングし対応するプライムマネジャーのアサインなど、一般的な人材紹介サービスと類似したソリューションも提供している。

 

Flexiple(https://flexiple.com/)

ソフトウェアなどの開発者やデザイナーなど、技術を持つフリーランサーを、独自のマルチレベル評価システムでスコア化し、可視化する機能を持つ。その評価システムは技術スキルだけでなく、コミュニケーションスキル、過去のパフォーマンス、身元調査なども含まれるという。

2022年のEconomic Timesが主催するThe Bootstrap Champ(少なくとも1年間顧客を獲得し、収益を得る能力を実証しており、大企業にスケールする可能性を持っているスタートアップ)に選定された[ii]。

 

Refrens(https://www.refrens.com/)

Flexiple同様、技能を持つフリーランサーを抱えるプラットフォームであり、主に中小企業をターゲットとして、必要な技能を持つフリーランサーをマッチングしている。登録者に対し、無料で請求、支払い、および経費管理システムを提供している点が特徴であり、より使い勝手の良いプラットフォームとして注目されている[iii]。

 

GIG 4U(https://gig4u.co/)は、コルカタ拠点の人材コンサルティング会社2COMs Consulting Groupの子会社Gigflexにより、2020年に立ち上げられた、ギグワーカープラットフォームだ[iv]。PINコード(郵便番号)でも人材が検索でき、特定の地域に絞っての人材探索も可能だ。

 

これらのように、従来の人材紹介会社と同等の動きをしながら、ギグワーカーと企業を結びつけるプラットフォームの拡大により、より高付加価値なギグワーカーも登場していることがうかがえる。また、これらプラットフォーム上の登録者のKYCや支払いをより簡易に行うためのファイナンシャルサービスを提供する、Decentro(https://decentro.tech/)のようなフィンテック企業も登場してきている[v]。

 

ホームサービス分野のギグワーカーを擁するUrban Companyは、パートナー(ワークを提供する個人登録者)の収入を公開しており、月間30を超えるサービスを提供するパートナーの平均月収は、諸経費やコミッション費用を除き33,469ルピー、上位20%のパートナーでは42,792ルピーだったという[vi]。

その一方で、年間50万ルピー(月平均4万ルピー強)稼げるギグワーカーはわずか2.6%、77.6%は年間25万ルピー(月平均2万ルピー強)未満しか収入がない、といったデータも見られる[vii]。ギグワーカーの中には、収入の不安定さやより多くの仕事の確保のため、複数のプラットフォームを掛け持ちし、長時間の労働を余儀なくされる人も多い。また、雇用契約に守られていない分、福利厚生の恩恵は受けられず、社会保障などの自己負担も大きくなる。

 

インド政府も、こういった労働形態の個人を守るため、法規の改定や整備を進めている。ギグワーカーの定義は、インドでは2020年の社会保障法で初めて規定された[viii]。当規定では、「ギグワーカーとは、従来の雇用者と従業員の関係以外の活動から報酬を得て、業務を遂行したり、業務に携わる人のことを指す」とあり、この定義により、従来の雇用契約で守られるべき従業員の福利厚生や社会保障などが適用されない、これらギグワーカーにも保障を適用しようとするものである[ix]。

実際の労働基準や賃金などは、州単位で決められるため、中央政府は各州に同様の法整備を行うよう指示しているものの、実際に法制化が完了したのはラジャスタン州(2023年7月)のみで、カルナタカ州など複数州ではそういった動きが見られるものの、法制化には至っていない。

そういった中、2024年度の政府予算の注目すべきポイントとして、e-Shramポータルへのギグワーカーの正式な登録の対象となったことがあげられる。当ポータルは、2021年に非組織労働者登録のためのデータベースとして開設され、社会保障給付と政府の福祉制度へのアクセスを提供している。今まではギグワーカーはグレーゾーンとされていたが、ギグワーカーも、固有のIDカードを受け取ることができるようになり、社会福祉制度へのアクセスの門戸が開かれた形だ[x]。また、個人が固有IDを持つことにより、複数の事業者やプラットフォームでの掛け持ちによる、複雑性の解決策のひとつともなる。徐々にではあるものの、法整備が進むにつれ、ギグワーカーを取り巻く環境が改善されることが望まれる。

[i] https://www.niti.gov.in/sites/default/files/2022-06/25th_June_Final_Report_27062022.pdf?src_trk=em662dd7fc580868.22972544883053027

[ii]https://economictimes.indiatimes.com/tech/startups/et-startup-awards-2022-nominees-for-bootstrap-champ/articleshow/94997029.cms?from=mdr

[iii]https://yourstory.com/2020/05/funding-alert-refrens-vijay-shekhar-sharma-anupam-mittal

[iv] https://www.aninews.in/news/business/business/2coms-consulting-group-introduces-gig4uco-an-indian-gig-work-and-freelance-marketplace-through-its-subsidiary-gigflex-pvt-ltd20220614150808/

[v]https://decentro.tech/blog/top-gig-economy-platforms/

[vi] https://medium.com/urban-company/urban-company-annual-business-summary-fy2024-b66f6b8a0762

[vii]https://www.outlookbusiness.com/magazine/indias-gig-workers-are-riding-into-an-uncertain-future

[viii]https://pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2078528

[ix] https://www.lawrbit.com/article/gig-workers-in-india-analyzing-the-legal-framework/

[x]https://www.insightfultake.com/details/indias-budget-2025-a-bold-step-towards-gig-worker-security

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